「ルールを知らない」といわせないために
第3回:コンプライアンスを考える
本田 茂樹
現在の三井住友海上火災保険株式会社に入社、その後、出向先であるMS&ADインターリスク総研株式会社での勤務を経て、現職。企業や組織を対象として、リスクマネジメントおよび危機管理に関するコンサルティング、執筆活動を続ける一方で、全国での講演活動も行っている。これまで、早稲田大学、東京医科歯科大学大学院などで教鞭をとるとともに、日本経済団体連合会・社会基盤強化委員会企画部会委員を務めてきた。
2024/11/12
これだけは社員に伝えておきたいリスク対策
本田 茂樹
現在の三井住友海上火災保険株式会社に入社、その後、出向先であるMS&ADインターリスク総研株式会社での勤務を経て、現職。企業や組織を対象として、リスクマネジメントおよび危機管理に関するコンサルティング、執筆活動を続ける一方で、全国での講演活動も行っている。これまで、早稲田大学、東京医科歯科大学大学院などで教鞭をとるとともに、日本経済団体連合会・社会基盤強化委員会企画部会委員を務めてきた。
企業がコンプライアンス違反をしたという報道が後を絶ちません。その内容も、贈収賄やインサイダー取引、そしてセクハラ・パワハラや不正経理など多岐に渡っています。
コンプライアンス違反は、企業が法令や社内規定、そして社会規範などに反する行為を行うことです。企業がひとたびこのような違反を起こしてしまうと、法令違反の場合は、刑事法や民事法等の制裁を受けるとともに、それ以外の場合も、一般社会からの信頼を失い、経営破綻にまで発展するケースがあり得ます。
コンプライアンスといえば、「法令遵守」という意味でとらえがちですが、それだけにとどまりません。
そもそも、語源となる”comply“ には「応じる」「合わせる」「受け入れる」などの意味がありますが、企業にとってのコンプライアンスは、ステークホルダーに合わせる、また社会の要請に応えるという要素も含んでいます。つまり、企業にとってのコンプライアンスは、法令を守っているだけでは十分ではなく、それ以上のものを求められていることになります。
「コンプライアンスは法令遵守だけではない」とはいうものの、法令遵守は極めて重要です。例えば、法令には違反していない、つまり、広い意味での「コンプライアンス違反だけ」の場合、企業内での処分や社会からの非難はありますが、法的制裁は科されません。
つまり法令遵守は、組織、つまり企業として守るべき最低限のルールであり、それに違反すれば刑法(横領やインサイダー取引など)や、民事法(債務不履行など)の法的制裁が科されます。
企業におけるコンプライアンスは、法令遵守に加えて、企業のルールや社会規範も大切です。それぞれの関係を示すと[図1]のようなイメージです。
[図1]コンプライアンスと法令遵守のイメージ
法令に違反していなければ、法的制裁はないのですが、企業のコンプライアンス規程に違反する行為、また社会的な信頼を失う行為を行った場合、世の中からの非難、いわゆるバッシングを受け、結果として信頼を失うことになります。
コンプライアンスは重要という点は変わりませんが、守るべきルールや規範が変わり得るということも押さえておく必要があります。
例1:「パワーハラスメント防止措置」の義務化
パワーハラスメントは、これまでも従業員個人の尊厳を傷つけるだけではなく、職場の雰囲気が悪くなる、また生産性が落ちるなど、企業経営にも悪影響を及ぼすとして大きな社会問題となっていました。
2019年に「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、これにより「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」が改正され、職場におけるパワーハラスメント防止対策が事業主に義務付けられました。
あわせて、男女雇用機会均等法および育児・介護休業法においても、セクシュアルハラスメントや妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントに係る規定が一部改正され、今までの職場でのハラスメント防止対策の措置に加えて、相談したこと等を理由とする不利益取り扱いの禁止や国、事業主および労働者の責務が明確化されるなど、防止対策の強化が図られ、2020年6月1日から施行されました。
企業においては、指導する立場の従業員と、指導される立場の従業員の間で不適切な上下関係が成立することが考えられます。特に、自分が受けた教育や指導方法をそのまま続けていると、指導を受ける側からするとパワーハラスメントとなる可能性がありますから注意が必要です。(※注1)
これまで大丈夫と考えていたことが、現在では法令に違反するということにも気をつけましょう。
(※注1)客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は該当しません。
例2:ドレスコード
法令だけではなく、企業のルールや社会規範も変わるということを忘れてはいけません。
例えば、真夏の服装に関する企業ルールが変わりつつあります。かつては、真夏でも「背広やネクタイ着用」、あるいは「所定の制服やスーツに準じる」というドレスコード(※注2)が当たり前でしたが、最近では、クールビズの定着もあり、訪問先の業種や面談相手に合わせて、それぞれの企業でルールを決めているところが多いようです。
このような流れの中で、服装に関する社会規範も容認される範囲が広くなっているようです。
(※注2)ドレスコードは、場所や時間、場面などに応じた服装のルールで、「服装規定」という意味。
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