三重県の豪雨災害――9月の気象災害――
20年前の大災害を振り返る
永澤 義嗣
1952年札幌市生まれ。1975年気象大学校卒業。網走地方気象台を皮切りに、札幌管区気象台、気象庁予報部、気象研究所などで勤務。気象庁予報第一班長、札幌管区気象台予報課長、気象庁防災気象官、気象庁主任予報官、旭川地方気象台長、高松地方気象台長などを歴任。2012年気象庁を定年退職。気象予報士(登録番号第296号)。著書に「気象予報と防災―予報官の道」(中公新書2018年)など多数。
2024/09/25
気象予報の観点から見た防災のポイント
永澤 義嗣
1952年札幌市生まれ。1975年気象大学校卒業。網走地方気象台を皮切りに、札幌管区気象台、気象庁予報部、気象研究所などで勤務。気象庁予報第一班長、札幌管区気象台予報課長、気象庁防災気象官、気象庁主任予報官、旭川地方気象台長、高松地方気象台長などを歴任。2012年気象庁を定年退職。気象予報士(登録番号第296号)。著書に「気象予報と防災―予報官の道」(中公新書2018年)など多数。
2004(平成16)年9月28日から29日にかけて、三重県地方は豪雨に見舞われた。折から、台風第21号が接近中であった。紀伊長島町(現・紀北町)三戸(さんど)では、28日15時から29日21時までの30時間に1180ミリメートルの降水量が観測された。この豪雨により、付近一帯では土砂災害が多発し、浸水害も発生した。この豪雨による三重県内の被害は、死者・行方不明者10人、負傷者2人、建物の全壊流出25棟、家屋浸水6149棟などにのぼった。
災害発生直後の10月1日、政府調査団が現地に派遣された。筆者はその一員としてこれに参加し、被災地の詳しい状況把握を行う機会を得た。本稿では、まず豪雨の状況を述べ、後半で政府調査団に参加しての体験を述べる。
三重県と言えば、わが国有数の多雨地域で、降水量のランキングの上位に必ず登場する。たとえば、気象庁の日降水量ランキング(表1)では、第1位が箱根(神奈川県)の922.5ミリメートルで、以下、第2位が魚梁瀬(やなせ、高知県)、第3位が日出岳(ひでがだけ、奈良県)と続き、第4位に尾鷲(おわせ、三重県)の806ミリメートルが出てくる。第7位にも宮川(みやがわ、三重県)の764ミリメートルという記録が並んでいる。このような地域は雨に強く、大雨が降っても大きな災害にはつながりにくい傾向があるが、2004年9月ほどの豪雨になるとさすがに耐え切れず、重大な災害の発生に至ってしまった。
表2は、三重県でこれまでに発生した主な水害の一覧表で、三重県のホームページ掲載の資料に基づいている。人的被害に着目すれば、1959(昭和34)年の伊勢湾台風による被害が圧倒的に大きいのだが、これは主に高潮災害である。降水量に着目すれば、本稿で扱う2004(平成16)年9月の豪雨や、本連載で2022年9月にとりあげた2011(平成23)年9月のいわゆる「紀伊半島大水害」が顕著なものである。ちなみに、表2に記入されている「連続雨量」は、河川関係者が用いる用語で、気象で用いる「積算雨量」に似ているが、無降水期間があるとそこでクリアするしくみになっている。以下、本稿では、2004年9月28日~29日の三重県における豪雨を「三重県豪雨」と呼ぶ。
気象庁の予報用語で「大雨」とは、「災害が発生するおそれのある雨」と定義されている。また、気象業務法施行令(第4条)では、「注意報」を「災害が発生するおそれがある場合にその旨を注意して行う予報」と規定している。これらの定義によれば、「大雨」とは、大雨注意報の基準を満たすような(またはそれ以上の)雨と考えてよい。大雨注意報の基準は、以前は雨量で決められていたが、最近は災害との関係がより明確な指数で決められるようになったので、「大雨」に該当するか否かが分かりにくくなった。わが国では、一般に、年降水量の平年値の20分の1の雨量が一度に降ると災害が起き始めると言われており、これを大雨の目安として覚えておくのもよいかもしれない。その値を調べてみると、東京では約80ミリメートル、大阪では約67ミリメートル、鹿児島では約122ミリメートル、新潟では約92ミリメートル、仙台では約64ミリメートル、札幌では約57ミリメートルであるのに対し、多雨地域の尾鷲では約198ミリメートルとなっている。
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