帰宅困難者対策をいま一度見直す(イメージ:写真AC)

このほど南海トラフ地震臨時情報が初めて発表され、1週間、巨大地震への注意が呼びかけられました。呼びかけは終了しましたが、リスクが去ったわけではありません。首都直下地震も含め、次の巨大地震への備えを根本から見直す必要があると考えます。

帰宅困難者対策ガイドラインの改定

ご存じの方も多いでしょうが、この7月、内閣府の帰宅困難者対策ガイドラインが改定されました。帰宅困難者あるいは帰宅者を多数抱える企業BCPの視点が少し足りない印象ではありますが、いま一度、帰宅困難者対策に目を向けてもらおうとする意図は感じます。

この改定ガイドラインで新たに示された企業BCP視点の項目は、一斉帰宅抑制後の帰宅行動指針です。ただ、示された内容では、企業は対策の方向性は理解できても、具体的な対応には大いに迷いが生じると思います。

企業・組織が策定すべき帰宅困難者対策において、求められる要素(規程の目次案になるもの)には次のものがあります。

➊帰宅者、帰宅困難者の定義
➋帰宅者および帰宅困難者の管理と担当部門
➌一斉帰宅抑制への対応(分散帰宅の考え方、等)
➍帰宅困難者の滞留準備(備蓄品、居留環境整備、滞留期間等)
➎帰宅者に対する帰宅許可(安全確保、申請書、許可者と責任、法的根拠:労働契約法における安全配慮の考慮の要否)
➏帰宅者へのサポート(備蓄品配布、安否確認ルール、情報提供、等)
➐帰宅困難者へのサポート(備蓄品配布、居留環境、家族の安否確認、情報提供とツール、等)
➑帰宅困難者の帰宅と職場への復帰

これ以外に、安全点検のためのチェックシートや帰宅者・帰宅困難者の定義と管理手順書、帰宅者の帰宅申請書と帰宅許可者(部門もしくは対策本部等)の設定なども求められます。

ここで最も企業が悩ましいと考えているのが、➎帰宅者に対する帰宅許可の法的根拠の部分。帰宅者が帰宅途中で怪我などをした際の取り扱いにおいて、企業はどのように法的責任を負うのかという問題です。

帰宅許可はいつ誰がどう出すのか(イメージ:写真AC)

実際、法律の専門家でも意見が異なっていて、ある専門家は「帰宅時の事故は労災の適用範囲ではあるが、企業の責任範囲外である」とし、ある専門家は「有事においては、帰宅許可を出している以上、労働契約法における安全配慮義務として、会社の責任範囲である」としています。

ここは、企業ごとに法務部門が、事前に担当弁護士に相談の上、企業としての対応方針を明確にしておく必要があるでしょう(企業ごとに対応が異なるのは、現状では致し方ありません)。

さらに、帰宅許可は「誰が」出すのかという原則的な部分も決めておかねばなりません。従業員の「労働」に責任を持つ担当管理職(課長あるいは部長)が許可を出すのか、有事における行動統制という観点から対策本部が許可を出すのか。

職場を管理している部門の管理職が許可を出すほうが有事に運用しやすいといえますが、安否確認の責務を負う経営陣を中心とした対策本部は帰宅困難者に関する情報を管理する必要があります。こうした背景を考慮して行うべき企業の対応を、次ページにまとめます。