首都直下地震の現実的対策として本社機能移転を再考(イメージ:写真AC)

いまだ能登半島では大きな余震が続き、他のエリアでも震度5弱以上の地震が連続して発生している印象があるなか、やはり次の巨大地震への備えとして、都心南部直下地震、つまり首都直下地震について、再度シナリオから見直す必要があると考えています。

首都直下地震の現実的なBCP対策とは

ご存じのように、東京都は2022年、東京に影響を与える地震群に対して被害想定の見直しを行い、2023年には地域防災計画を修正しました。都としての通信基盤の確保(Wi-Fi設置促進や衛星通信の活用検討など)や帰宅困難者対策の強化などが盛り込まれましたが、それらが進展しても、東京に本社機能を有する企業・組織のBCP構築シナリオにほぼ影響を与えないのではないかと思っています。

現在、東京に本社機能を有する企業や組織のBCPにおいて最も重要なのは(1)停電対策(2)情報システムの継続(IT-BCP)(3)有事コミュニケーション継続のためのシステム導入(4)耐震・免震が強化されたオフィスビルの移転、の4項目。それぞれの具体策を次にまとめます。

(1) 停電対策
➊オフィス内に必要な容量のバッテリ/蓄電池を配備
➋対策本部メンバー、BCP重要部門メンバー、情報システム部門メンバー用に部門単位でポータブル電源を配備
➌BCP担当者(経営陣を含む)個人に対して比較的大容量(3日間程度充電可能な容量)のモバイルバッテリを常備
➍停電時に発電機が作動し、3日間程度給電可能なBCP対応ビルへの移転

(2) 情報システムの継続
➊ヒトへの対応:情報システム部門のメンバーのマルチタスク、ダブルアサインメント、スキル要素を含めた独自の安否確認システム、エスカレーションルールの徹底
➋システム:システム要素ごとのバックアップや冗長化(DR)
➌カンキョウ:クラウド(堅牢なデータセンター)へのシステム移行

(3)コミュニケーション継続のためのシステム導入
➊衛星通信システムの導入
➋ネットワークのマルチホーミング化
➌災害用電話通信システムの導入
➍音声でない、チャットによるコミュニケーションツールの導入と教育

(4) 耐震免震が強化されたBCP対応オフィスビルへの移転
➊停電対策として3日以上の発電機による給電(テナントへの給電)
➋免震構造により、建物自体の揺れが抑えられる
➌長周期地震動対応により、長周期地震動が抑えられる

さて、これらの具体策を実現でき、首都直下地震に耐えることができるのは、すでに多くを実現している一部のインフラ企業や大組織だけであり、そうでない企業が今後ここに莫大な予算を振り向けて理想的なBCP機能を実現することは、難しい経営判断となるのではないでしょうか。

首都直下地震後には、復旧半ばに、南海トラフ地震がやってくる可能性もあります。南海トラフ地震で東京に大きな揺れをもたらすとされる東海地震(静岡県沖)では、揺れの想定は震度5弱。東日本大震災と同程度ですが、液状化被害が想定されます。また、東京から離れた南海地震(高知沖)や日向灘地震においても、都内に長周期地震動が及ぶ可能性があります。

南海トラフ地震と連動する可能性もあり、液状化対策や長周期地震動対策も必要になる(イメージ:写真AC)

液状化被害は地盤増幅率によりある程度見えていますが、長周期地震動によるオフィスビルへの被害程度はまったく予想できません。都内湾岸エリアや武蔵野台地の南方、東方エリアの超高層ビル、超高層マンションなどが長周期地震動に見舞われた場合に何が起こるのか、誰も想定できないなか、BCP的に求められるのは、免震・耐震だけでなく、長周期地震動対策ビルでもある必要があります。都内において長周期地震動対策が施されたオフィスビルは、数えるほどしかありません。