日高豪雨――8月の気象災害―
情報共有は危機管理の一形態である
永澤 義嗣
1952年札幌市生まれ。1975年気象大学校卒業。網走地方気象台を皮切りに、札幌管区気象台、気象庁予報部、気象研究所などで勤務。気象庁予報第一班長、札幌管区気象台予報課長、気象庁防災気象官、気象庁主任予報官、旭川地方気象台長、高松地方気象台長などを歴任。2012年気象庁を定年退職。気象予報士(登録番号第296号)。著書に「気象予報と防災―予報官の道」(中公新書2018年)など多数。
2024/08/18
気象予報の観点から見た防災のポイント
永澤 義嗣
1952年札幌市生まれ。1975年気象大学校卒業。網走地方気象台を皮切りに、札幌管区気象台、気象庁予報部、気象研究所などで勤務。気象庁予報第一班長、札幌管区気象台予報課長、気象庁防災気象官、気象庁主任予報官、旭川地方気象台長、高松地方気象台長などを歴任。2012年気象庁を定年退職。気象予報士(登録番号第296号)。著書に「気象予報と防災―予報官の道」(中公新書2018年)など多数。
2003(平成15)年8月の台風第10号は、この年2個目の上陸台風である。沖縄県から北海道まで、すべての都道府県に影響を与えた。中でも、北海道の日高山脈の西側に位置する日高地方の豪雨被害が顕著であった。北海道では台風接近前から、防災関係の各機関が特別態勢を敷いて警戒にあたったが、結果的に様々な課題が残った。この災害を契機に、北海道では、北海道開発局、札幌管区気象台、北海道庁の三者による防災情報の共有に向けた動きが起こり、防災関係機関が連携して災害に備える体制が構築・強化される端緒となった。こうして、北海道の防災体制に一石を投じたこの豪雨は、道内の防災関係者から「日高豪雨」と呼ばれるようになった。
図1に、台風第0310号(2003年台風第10号)の経路図を示す。8月3日3時にグアム島の西海上で発生した熱帯低気圧は、3日15時に台風となった。この台風は、フィリピンの東海上を北西へ進みながら発達し、5日3時には中心付近の最大風速が35メートル/秒に達して強い勢力となり、6日以降は北北西に進んで、7日9時半頃沖縄本島付近を通過した。その後は北北東に向きを変え、奄美諸島に沿って進んだ7日15時から19時にかけて、中心気圧945ヘクトパスカル、中心付近の最大風速45メートル/秒に達して大型で非常に強い台風となり、生涯を通じての最強勢力を示した。台風はさらに北北東へ進み、8日22時前に高知県室戸市付近に上陸、9日6時頃兵庫県に再上陸した。台風はその後、勢力を弱めつつ、加速しながら、近畿北部、北陸、東北地方を経て、10日1時半頃、北海道えりも岬付近に三たび上陸し、10日3時に北海道東部で温帯低気圧に変わった。その後は、オホーツク海へ進み、12日3時にカムチャツカ半島の西の海上で生涯を閉じた。
図1に示されるように、台風の経路が日本列島に沿っていたため、影響は日本全国に及んだ。図2に、8月7日から10日までの総降水量と、同期間内に観測された最大瞬間風速の分布を示す。この台風により、南西諸島と九州から東海地方にかけての太平洋側、および北海道で大雨となり、高知県と徳島県では総降水量が600ミリメートルを超えたところがあった。また、沖縄、九州、四国では、台風接近時に45メートル/秒を超える最大瞬間風速が観測された。九州、四国、近畿地方では、潮位偏差が1メートルを超える高潮も発生した。
北海道では、太平洋側で総降水量が多くなった。特に、日高地方では、平取(びらとり)町にある気象庁の旭アメダス観測所で389ミリメートルの総降水量を観測するなど、北海道としては記録的な豪雨となった。
この台風による全国の被害は、死者・行方不明者19名、負傷者94名、住家の損壊614棟、浸水2398棟にのぼった。
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