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リスクの特性と統合的管理

企業活動は様々な要因によって影響を受ける。その結果、企業が保有している資産、負債の価値は常に変動している。想定外の変動によって純資産が縮小したりリスクが急拡大すると、企業の倒産リスクは高まることとなる。従って企業は、これらの重要な変動要因をリスクとして捉え、同類のリスクをカテゴリー別に分類して管理しようとする。ただ、個々のリスクは異なる特徴を持っている点を十分理解した上で、適切に管理していかなければならない。

例えば、自動車事故損害と自然災害のリスク特性について比較してみたい(図表-1参照)。その損害の発生状況を統計手法を使って可視化してみる。例えば、これらの原因による過去の損害データを統計的に処理し、損害発生の確率分布を導いてみると、下図のようにその特徴の違いが確認される。このように確率分布が得られれば、一定の信頼水準(※)の下で、期待値からの乖離の程度をリスク量として把握することができる。この手法はバリュー・アットリスク(VaR)と呼ばれ、定量的リスク管理として広く活用されている。

画像を拡大 図表-1:リスク特性の相違 

※ 信頼水準とは、統計学において、「同じ母集団からサンプルを繰り返し抽出する場合に母数が含まれる区間のパーセントをいう。つまり、信頼水準99.5%とは、例えば、損害が200回発生したとして、そのうち199回までがカバーされる水準のことを意味する。換言すれば、当該リスクに対し、この水準の想定損害額に相当する資本を確保しておけば、200回のうち1回は、この資本を超える損害の発生がありうるが、それ以外の損害はこの資本の中で担保されるということとなる。このような意味から、実際の企業リスク管理において、信頼水準は、経営の安定性に関し、経営が想定する健全性の程度を表しているとも言えるわけである。

リスク管理の実務では、価値変動要因とそれによって影響を受ける資産、負債項目を紐付けて管理することが有効である。例えば、株式や債券の価値の変動と金融指標の変化との関係、保有財産の価値と自然災害発生との関係、原材料価格の変化と市場の需給の関係、操業中の事故の発生と収益との関係など、リスクと事業価値の関係を適切に捉えて管理することが望ましい。企業はこれまでの経験知に基づき、市場リスク、信用リスク、事故リスク、自然災害リスク、オペレーショナルリスクなどといったリスクカテゴリーを設定してリスク管理を実践している。

ここで、カテゴリー別に分けられた各リスクの相互の動きに着目してみたい。この相互の動きは必ずしも同じ方向にあるわけではないあるリスクが高まっていれば、他のリスクも常に高まることになるわけではない。逆に低くなることもありうる)。

例えば、株価が下がって、保有資産の価値が下がると、必ず自然災害が多発して災害損失が増加し、そろって企業の純資産を低下させる方向に作用するとは限らないわけである。

この事実が示唆することは、リスクカテゴリー単位での対応に終始することでは、サイロ的な管理に陥り、リスク全体を掴みリスクを管理することにはならないことを意味する。「木を見て森を見ず」という言葉があるように、リスクにおいても、「全体は部分の総和にあらず」と言われ、各リスクの相互関係によって、その総体の様相は変化することになる。