オペレーショナルリスクとコンダクトリスク
企業は、リスクに対する組織の適切な行動を管理するためにオペレーショナルリスクとコンダクトリスクといったリスクカテゴリーを設定し管理を実施していることが多い。
両者の特徴を述べると次のとおりである。オペレーショナルリスク管理は、過去の操業上の失敗事例を分析して同種の事例の再発を予防するための管理である。換言すれば、過去・現在の状況を踏まえ、それを将来に延長して対応するフォワードルッキングなアプローチの一種といえる。他方、コンダクトリスク管理は、将来の環境が必ずしも過去と同様ではないことも踏まえ、組織行動の特徴を理解した上で、組織行動を律する根底の部分(組織文化と表現することもある)を意識して、不測の事態を招かないための制御を行う活動といえる。つまり、将来の環境変化をも想定に入れたバックキャスティングなアプローチの一種といえる。
判断上のリスクへの対応
企業が将来適切な行動を取ろうとすると、過去の事例から教訓を得て再発を防止することは必要である。ただ、それだけでは十分とは言えない。特に企業を取り巻く環境が大きく変化している状況では、リスクの変化や変化に対する組織活動の特徴・脆弱性を理解した上で対応していかなければならない。
イソップの寓話の中に、塩を運ぶロバの話がある。これは、塩を背負って川を渡っていたとき、滑って水中に倒れ、塩が溶けて身軽になった経験に味をしめたロバが、海綿を背負って川のほとりにやってきたときわざと滑ったが、海綿が水を吸って重くなり、立ち上がることができず溺れてしまったという物語である。リスクの変化を十分確認せず誤った判断から重大な事態を引き起こすことへの教訓として語られることが多い。
ここで今後のリスク管理への応用を考えてみたい。例えば、われわれが十分知り尽くしていると思っているリスク(既知のリスク)が知らないうちに変質してしまったり、全く新たなリスクが登場する場合、われわれの意思決定に介在する判断ミス(Faulty judgement)を否定しえない。リスク管理の実行性を担保しようとすると、このような判断ミスについてもマネージしていかなければならない。
行動経済学の世界では、合理的な意思決定を妨げるバイアスについて多くの研究成果が報告されている。例えば、人は望ましくない結果を自分の行動のまずさに求め、無知であったことに求めない傾向がある(後智恵バイアス)。また、人は決定の質と結果の質を混同してしまい、たまたま不幸な結果となってしまった健全な決定を後悔したり、結果論として幸運な成果を挙げた事例を誇りに感じたりする傾向がある(結果バイアス)。
このように現実に思い当たる傾向に関する様々なバイアスが紹介されているが、リスク管理に関連づけて代表的なバイアスによる影響を、図表-1に例示してみた。
このような意思決定に伴うバイアスを管理するためには、意思決定に関わる判断上のリスクの原因となるバイアスを組織構成員が理解し、その陥りやすい傾向を知った上で予防・回避するための対策を打つことが重要となる。
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