2024/04/14
防災・危機管理ニュース
【ニューデリー、シリコンバレー時事】世界的に重要な選挙が続く「選挙イヤー」となった今年に入り、各国で生成AI(人工知能)を使った選挙戦が本格化している。従来にないやり方で有権者に訴えることができる利点がある一方で、精巧な偽画像・動画「ディープフェイク」拡散の危険も高まっている。
◇AIメッセージに沸く支持者
「あなたたちが投票してくれると確信していた」。パキスタン総選挙の開票が進んでいた2月9日、汚職の罪で昨年8月から収監されている野党パキスタン正義運動(PTI)の設立者カーン元首相の「勝利演説」動画が、SNSに投稿された。
動画で使われた音声は、米国に住むPTIのソーシャルメディア責任者ジブラン・イリヤス氏が、獄中のカーン氏から渡されたメモを基にAIのソフトを使って合成。映像は過去の動画や静止画をつなぎ合わせた。
PTI陣営は昨年12月にカーン氏のAI演説の第1弾を公開。これが国内外の注目を集め、同党系の無所属候補が事前の予想を上回る健闘を見せた。イリヤス氏は「AI演説を聞いて多くの人が奮い立ち、党勢拡大に貢献した」と手応えを語った。
◇多言語翻訳で地域差克服
昨年人口が世界一となり、「世界最大の民主主義国」を自負する隣国インド。総選挙の最初の投票が今月19日に迫る中、与党インド人民党(BJP)はモディ首相のヒンディー語の演説をAIを使ってタミル語やテルグ語など8言語に翻訳し、ネットで配信している。
インドは地域ごとに多くの言語が併存する。BJPはヒンディー語話者の多い北部や中部を主な地盤としており、弱点である南部の言葉で訴えることで支持基盤を広げる狙いがある。
与党だけではない。南部タミルナド州の地域政党は、党のリーダーで2016年に亡くなったジャヤラリタ元同州首相の声をAIで「復活」させた。女優から転身したジャヤラリタ氏は生前、高い人気を誇り、生成された同氏の声は「中央政府は私たちを裏切った」などと訴えた。
◇「偽音声」電話で選挙妨害
AI普及の負の側面も目立つようになった。「チャットGPT」を開発したオープンAIなど、生成AI開発企業がひしめく米国では、11月に大統領選を控え、フェイクの拡散が選挙をゆがめるとの懸念が深まる。
共和党は昨春、ユーチューブに「史上最弱の大統領が再選したら」とのフレーズの下、銀行の経営破綻や紛争をイメージした動画を投稿。生成AIで作られたもので、現職バイデン大統領のイメージ悪化を図った。
今年1月の民主党のニューハンプシャー州予備選では、バイデン氏に似た声で投票を棄権するよう呼び掛ける電話が有権者の元にかかる例が多発した。生成AIで制作された「ディープフェイク音声」で、対立陣営が仕掛けた妨害行為だった。
米政府はこれを踏まえ、AI音声による電話を規制。開発企業も選挙活動への利用禁止などの対策を講じた。ただ、包括的なAI利用に関する超党派の法案はまとまっておらず、選挙での新技術活用の在り方を巡る議論は道半ばだ。
〔写真説明〕パキスタンの野党パキスタン正義運動(PTI)が2月9日に公開した、生成AI(人工知能)で作られたカーン元首相の演説動画(同党のユーチューブチャンネルより・時事)
(ニュース提供元:時事通信社)
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