裁判手続の基礎知識【番外編:ADR】
ADR(裁判外紛争解決手続)の特徴・種類等
山村 弘一
弁護士・公認不正検査士/東京弘和法律事務所。2006年慶應義塾大学文学部人文社会学科人間関係学系社会学専攻卒業、09年同大学大学院法務研究科法学未修者コース修了、10年弁護士登録、21年公認不正検査士(CFE)認定。一般企業法務、債権回収、労働法務、スポーツ法務等を取り扱っている。また、内部公益通報の外部窓口も担っている。
2023/11/29
弁護士による法制度解説
山村 弘一
弁護士・公認不正検査士/東京弘和法律事務所。2006年慶應義塾大学文学部人文社会学科人間関係学系社会学専攻卒業、09年同大学大学院法務研究科法学未修者コース修了、10年弁護士登録、21年公認不正検査士(CFE)認定。一般企業法務、債権回収、労働法務、スポーツ法務等を取り扱っている。また、内部公益通報の外部窓口も担っている。
裁判手続の基礎知識として、これまでに民事通常訴訟の第一審(民事通常訴訟編)と労働審判(労働審判編)を取り上げてご説明しました。今回は番外編として、ADRについて取り上げてみたいと思います。
ADRとはAlternative Dispute Resolutionの各頭文字をとったもので、裁判外紛争解決手続と呼ばれるものです。一般に、民事上の紛争を解決するための制度で民事訴訟を除くものについての総称として用いられています。
ADRは公正・中立な立場の第三者が紛争当事者の間に立ち、その紛争解決を目指します。この点は、裁判官が紛争当事者の間に立つ民事訴訟と共通しているといえます。
しかしながら、ADRには民事訴訟との対比として、当該分野における専門家により、迅速で柔軟な紛争解決が可能であるという特徴・利点があるといわれています。
また「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ」(憲法82条1項)との定めにより、民事訴訟はその審理や判決の言渡しが公開され、誰でもそれを傍聴することができますが、ADRはこれに縛られるものではありませんので、一般に非公開の手続として行われています。このため、例えば企業が営業秘密等に関する紛争を非公開で解決したいと思うとき、ADRを利用することが選択肢として挙がってきます。
紛争解決の手続といえば民事訴訟が真っ先に想起されるかもしれませんが、ADRには民事訴訟とは異なる特徴がありますので、それを踏まえつつ、当該紛争や当事者のニーズに合った紛争解決の手続を選択していくことが有益になるのです。
ADRは、手続の性質の観点から、当事者間の合意による紛争解決を目指す合意型ADRと第三者の判断による紛争解決を目指す裁断型ADRとに分けられます(なお、合意型ADRについて、さらに、助言型ADRと調整型ADRとに分けられる場合もあります)。合意型ADRの例として調停、和解の仲介、あっせんが挙げられ、裁断型ADRの例として仲裁が挙げられます。
調停等でも、仲裁でも、公正・中立な立場の第三者(調停人・仲裁人等)が紛争解決に向けて手続を主宰することで共通しています。
しかしながら、調停等では、話し合い等を経て、第三者(調停人等)により調停案・和解案等が示され、これに当事者が同意することにより紛争が解決しますが、その際に同意を強制することはできません。このように、調停等には話し合いによる柔軟な解決ができるというメリットがある一方で、強制力がないというデメリットがあるといえます。
一方、仲裁では、紛争解決を第三者(仲裁人等)の判断(仲裁)に委ね、その判断に拘束されることを約する当事者間の合意(仲裁合意)があることを前提に、各当事者による主張立証活動を経て、第三者(仲裁人)による判断(仲裁)を得ることで紛争解決が図られることになります。
仲裁には強制力があるという点で、調停等にはないメリットがあるといえますが、民事訴訟のように上訴(控訴・上告)の制度がありませんので、判断の内容に不服がある場合でも、それを受け入れざるを得なくなるというデメリットがあるといえます。
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