自分の守備範囲以外になると途端に無関心に(写真:写真AC)

情報の歪みが起きる問題構造の根幹

前稿までに述べたように、企業が経済安全保障の課題に正面から向き合うことは、法的規制云々の領域を超えて、自社ビジネスを安全安心の大原則の元に公平公正な立場で行うために必要不可欠になってきている。その阻害要因の大部分は、情報の歪みによって起こるとも述べてきた。

閉鎖性の強い組織では似たような意見や価値観が増幅し多様性を受け付けなくなる(写真:写真AC)

ただ、その問題に具体的に対処するには、問題が発生する構造をもう少し見極める必要がある。筆者の私見だが、養老孟司先生のベストセラー著書『バカの壁』がわかりやすく説明していると考えている。『バカの壁』で指摘される現象が問題構造の根幹であり、最近の言葉でいうならエコーチェンバーともいえる現象が縦割り組織のなかで発生していると思えるのだ。

ここで『バカの壁』で述べられている現象を、私なりの解釈も加えて少しだけおさらいしておこう。

根幹の部分を簡潔に示すと、個々人の行動原理、アウトプットの大小は、その個人にインプットされる情報量とその情報に対する個人の関心度合いの積で表されるというものだ。

【アウトプット量】=【インプット情報量】×【その情報に対する関心度】

つまり極論をいえば、関心がゼロであれば、どれだけの情報量があろうとも、ゼロをかければゼロにしかならずアウトプットはゼロになる。

この公式は、実社会でかなりのレベルで適合性が確認できると感じている。関心を持つ事項には少しの情報でも過敏に反応し、関心がなければ気付きもしない。そして面白いのは、この関心が負の値を示す場合の想定である。

巷で起きている、切り取りの情報に対する屁理屈をこねまわした非論理的な誹謗中傷、ダブルスタンダードの数々は、関心度がマイナスで絶対値が大きい場合に起き得る現象と解釈できる。従って社会を動かすエネルギーの源泉は、この「関心度」のベクトル量(方向性と大きさ)に大きく依存するのである。

タコツボとも称される縦割り組織の弊害(写真:写真AC)

『バカの壁』ではこの「関心度」を「壁」と称しているが、企業組織において縦割りが「壁」を補強し、部分最適を生み出していく。古くから「組織の壁を取り払う」ことが重要な経営課題とされてきているが、人間が集まって活動する限り、この問題がなくなることは永遠にないといっても過言ではない。

ましてや日本型組織は、実力主義に変遷してきているとはいいつつ、自組織を守り、自組織の説明の弁が立つアピール力が出世の鍵となり、社内競争を勝ち抜く肝になる傾向が強い。それがたとえ部分最適であろうとも、勝ち上がれば成功事例になる。従って、欧米型企業と比較して「壁」の弊害が現れやすいのだ。