家族が捜査されたり告発されたりした時、一般人であればコメントする必要はありませんが、著名人は何らかのコメントをせざるを得ないでしょう。自分や自分の事業活動への影響を最小限に抑えるには、どう発信・発言したらよいのでしょうか。夫の会社と自宅に家宅捜索(3月7日には逮捕)が入った三浦瑠麗さんの事例を、信頼・評判の表現5原則から考察します。
信頼獲得に必要な表現力5要素とは
人を評価する際に「信頼できる人」「信頼できない人」といった言葉を私たちは使いますが、具体的にはどういうことでしょうか。さっと思いつくのは「嘘をつかない」「すぐ対応する」「温かく思いやりがある」などですが、ややあいまいです。
これをわかりやすくまとめたのが、チャールズ・J・フォンブランらによるレピュテーション研究。そこでは、信頼・評判獲得のためには表現力5要素が必要としています。
その5要素とは「顕示性」「独自性」「真実性」「一貫性」「透明性」。私は学者ではないので、広報の現場に即して次のように言い換えて解釈しています。
「顕示性」とは、言葉遣いがシンプルでわかりやすいこと、印象に残りアピール力があること。キャッチーコピーのような表現といえばいいでしょうか。「独自性」とは、他の人と同じ意見ではなく、新しい視点を提示していること。
「真実性」は、そのまま嘘をついていないこと。「一貫性」は言っていることに論理性があり、説得力があること、二転三転しないこと。また、言葉と見え方も一致していること。例えば、厳粛な場所で浮ついた服を着用しないなど。「透明性」は、タイミングよくスピーディーに対応していること、待たせる場合であっても理由やプロセスを説明していること。
このように意味をとらえると、よくできていると思います。さすがに1万人のデータから導き出しただけのことはあります。広報に携わる者として、平時・緊急時ともに役立つ要素なので、大切に活用しています。
第一報のミスはどこにあったか
では、ここから山猫総合研究所代表で国際政治学者の三浦瑠麗さんの炎上問題を取り上げながら考えます。
瑠麗さんについては過去においても、プチ炎上はしばしばありました。しかし、今回は夫の会社に東京地検特捜部の家宅捜索が入ったことがきっかけですから、これまでとはレベルが異なります。本人ではないのに瑠麗さんが攻撃されてしまっていることに違和感を持った人もいたかもしれませんが、ここはよく注意してみる必要があります。
1月20日、山猫総合研究所のプレスリリースとして掲載された内容は下記です。
今般、私の夫である三浦清志の会社が東京地方検察庁による捜索を受けたという一部報道は事実です。私としてはまったく夫の会社経営には関与しておらず、一切知り得ないことではございますが、捜査に全面的に協力する所存です。また、家族としましては、夫を支えながら推移を見守りたいと思います。
夫、清志さんの会社(TRIBAY CAPITAL株式会社:本社は東京都千代田区、以下、トライベイキャピタル)と自宅に特捜部の家宅捜索が入ったのが1月19日。太陽光発電事業への出資を名目におよそ10億円をだまし取った疑いで刑事告発されました。
これに対し、翌日にプレスリリースを出しているのは迅速な対応です。しかも個人のツイッターではなく、法人である山猫総合研究所のプレスリリースとしている点も事態を重く見ていることになり、よい判断だったと思います。
ただ、このプレスリリースで「一切関与していません」と書いてしまったことが、信頼失墜の引き金になってしまいました。家宅捜索の「事実」と、協力しますの「方針」のみに留めておくべきでした。「一切関与していません」などというコメントがリスクを生じさせています。そこを突いてきたのが1月24日の東京新聞です。
記事の見出しは、
三浦瑠麗氏の「夫の会社とは無関係」は通用する?成長戦略会議では太陽光発電推しの発言をしていたが…
として、議事録の言葉を紹介。利益相反を指摘しました。
続いて1月26日にアゴラでは、2018年の3月に放映された「朝まで生テレビ」の動画の切り抜きをそのまま掲載。太陽光についての議論の中で「うちは事業者ですから、いくらかかるか、何にかかるのかもわかってるんですよ」と、瑠麗さんが勢いよく言い切る声が響きました。
こうなると信頼失墜は決定的です。ネットという誰もが見られる場所で、発信・発言内容の食い違いが公にされてしまったことのダメージは大きい。せっかく迅速に出したプレスリリースが台無しになってしまいました。危機管理広報(クライシスコミュニケーション)における第一報の失敗です。
<動画解説>リスクマネジメント・ジャーナル
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