問題発生時に記者会見を開催すべきか否か。多くの組織は判断に迷いますが、迷わなくて済むよう通常は危機管理広報マニュアルに記者会見開催基準を明記します。役員不祥事ともなるとマニュアルに明記するのは躊躇するかもしれませんが、私が携わった組織では必要性を説得し、トップ逮捕を想定したマニュアルを整備しました。
今回は昨年発覚した、東京五輪・パラリンピックを巡るスポンサー契約問題でトップ逮捕が相次いだ事例から記者会見の開催効果を考えます(記事は2月1日時点までの情報にもとづいています)。
東京オリパラ不正の構図
東京オリパラ汚職問題とは何か、ざっとおさらいをしておきます。スポンサー選定を行っていたのは、2020東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、組織委員会)。組織委員会の高橋治之(たかはし・はるゆき)元理事が電通OBの立場を利用して複数の企業に便宜を図り、謝礼を得ていたとして、2022年8月17日に逮捕されました。
構図としては、高橋容疑者が自ら経営するコンサルタント会社や知人の会社を通じ、紳士服大手AOKIホールディングス、出版大手KADOKAWAにスポンサー選定などで便宜を図り、また広告会社の大広、ADKホールディングスにもスポンサー契約業務を請け負えるよう便宜を図り、謝礼を受け取ったことが罪に問われました。
何が問題かというと、高橋容疑者が「みなし公務員」だったことです。
「みなし公務員」とは、公務員ではないが、職務の内容が公共性を有している場合、刑法の適用について公務員としての扱いを受ける者。組織委員会理事は「みなし公務員」の立場であるため、職務に関連した金品の授受は違法とされます。
なお、この「みなし公務員」については、もっと解説、報道があってもいいのではないかと思います。「みなし公務員」という言葉自体、馴染みがないですから、ここでしっかりと認識をしなければ、同じことが繰り返されてしまいます。
見解書か記者会見か 各社の広報対応に差
本事件では、コンサルタント料が賄賂とみなされ、AOKIホールディングスの青木拡憲元会長(2022年8月17日逮捕、2022年6月29日に会長を退任)、KADOKAWAの角川歴彦会長(2022年9月14日逮捕、10月4日会長辞任)、大広の谷口義一執行役員(2022年9月27日逮捕)、ADKホールディングスの植野伸一社長(2022年10月19日逮捕、当日代表取締役社長を退任)と、各社経営幹部が相次いで逮捕される事態となりました。
この中で記者会見を開催しているのは、KADOKAWAのみです。各社の対応を詳しくみていきましょう。
【動画解説】見解書を表示しながら解説しています
AOKIホールディングスは、記者会見を開催していませんが、ひんぱんに情報開示をしています。「7月20日、当社に関する報道について」で「東京地方検察庁の捜査が行われているとの記事につきましては、当社の発表に基づくものではございません」と報道についての見解を皮切りに、7月27日には元会長が家宅捜索を受けた事実を認める見解、7月28日には会社が家宅捜索を受けた事実を認める見解を発表。
8月17日には「当社元役員及び執行役員の逮捕について」、「当社元代表取締役会長青木拡憲、元代表取締役副会長青木寶久及び専務執行役員上田雄久が、贈賄の容疑で東京地方検察庁に逮捕されました」と、事実を認める内容を発表。
9月6日は「当社元役員及び執行役員の起訴について」、「起訴の事実と共に、原因究明並びに今後のコンプライアンスおよびガバナンスに関する提言を含めた再発防止策の検討等を目的として、9月5日付で外部の専門家及び当社社外取締役から構成されるガバナンス検証・改革委員会を設置いたしました」とあり、3名の委員名と略歴を記載。
ここまではスムーズです。しかし、10月18日発表の「当社元役員らの起訴を受けての当社対応について」には、やや首をかしげました。原因についての記載がないからです。
「当社元役員らが、本コンサルティング会社に、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会スポンサーの選定及び公式ライセンス商品の製造・販売等に関して便宜を受ける目的で、金5100万円を供与したとして、そのうち金2800万円に関する贈賄の容疑で、東京地方検察庁に逮捕され、同年9月6日付で起訴されるに至っております」と事実関係の後、「対応」「取り組み」「経営責任」「経営への影響」と続き、原因についての記載がありません。
唯一、「本コンサルタント契約の締結及び契約更新の際に、本コンサルティング会社の代表者の地位がみなし公務員にあたるかといった確認が不十分であったこと、及び本コンサルティング会社が当社のために提供する役務がコンプライアンス上問題がないかについての確認が不十分であったことを認識」だけです。
本当に確認不足なのか、法務チェックの体制がわかりませんので、疑問が残ります。なぜなら、取り組みの項目に「当社グループ役員や従業員に対する内部通報制度の再度の周知徹底と必要に応じた見直しの実施」とあるからです。問題があると思った人がいたけれど、通報できなかった事実があると推測できます。
KADOKAWAの場合は、弁護士が注意喚起したにもかかわらず、決裁が強硬されたと説明していることを考えると「反対できなかった」社内体制が真因ではないかと疑ってしまいます。
徹底的に見直して出直すのであれば、むしろ記者会見で潔く説明してクリアにした方が会社の信頼回復につながったように思います。そもそも、10月18日発表であることを考えると、10月5日にKADOKAWAが記者会見を開催したことから、見解書を出すことにしたように見えます。その意味では、KADOKAWAが記者会見をした意義と影響はあるといえます。
ADKホールディングスの場合は、AOKIホールディングスに比べると情報が少ない。代表取締役社長と元役員等の計3名が贈賄の疑いで逮捕された事実(10月19日)、社長退任(10月20日)、起訴の事実と独立社外取締役、監査等委員会委員長らによる独立調査委員会設置のお知らせ(11月9日)。委員の経歴の記載がなく、調査委員会はいつまでに調査をするのか明記されていません。
大広に至っては、東京地方検察庁の捜査の事実を認め(9月5日)、逮捕の事実(9月27日)、起訴の事実と社内での調査、原因の究明、再発防止策の策定を目的としたコーポレートガバナンス改革委員会立ち上げ、その検討内容を外部有識者に監査・監督する監査委員会の設置のお知らせ(10月18日)のみ。調査結果や監査結果についての記載は、現時点でもありません。
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