独占禁止法とはどのような法律か(写真:写真AC)

昨年末、事業者向け電力の販売をめぐり電力会社数社がカルテルを結んでいたことが公正取引委員会の調査で判明。課徴金の大きさに加え、カルテルを主導したとされる電力会社の自主申告で判明したこと、それを理由に課徴金を免れる見通しであることが注目されました。独占禁止法は難解ですが、コンプライアンス確保・ガバナンス構築にはその理解が不可欠です。同法の主要な点を、弁護士・公認不正検査士の山村弘一氏に、複数回に渡って解説いただきます。

東京弘和法律事務所/弁護士・公認不正検査士 山村弘一

弁護士・公認不正検査士/東京弘和法律事務所。2006年慶應義塾大学文学部人文社会学科人間関係学系社会学専攻卒業、09年同大学大学院法務研究科法学未修者コース修了、10年弁護士登録、21年公認不正検査士(CFE)認定。一般企業法務、一般民事事件等を取り扱っている。スポーツ法務についても、アンチ・ドーピング体制の構築をはじめとして、スポーツ・インテグリティの保護・強化のための業務に携わった経験を有する。また、通報窓口の設置・運営、通報事案の調査等についての業務経験もある。

はじめに

2022年12月、事業者向けの電力の販売をめぐり電力会社数社がカルテルを結んでいたとして、公正取引委員会が総額で1000億円超の課徴金を命じる方針である旨のニュースが報じられると、その予定されている課徴金の金額の大きさが社会の注目を集めることとなりました。

また、課徴金が巨額であるのみならず、当該カルテルの存在を公正取引委員会が把握するに至った端緒となったのが、当該カルテルを主導したとされる電力会社による自主申告であったこと、そして、課徴金につき、肝心の主導者である当該電力会社が自主申告を理由としてその負担を免れる見通しであることも、社会の注目を集めた要因であったといえます。

さらに、2022年は東京オリンピック・パラリンピックを巡る贈収賄事件が社会を賑わせましたが、東京オリンピック・パラリンピックに関しては、入札談合が行われた疑いもあり、東京地検特捜部と公正取引委員会とが連携して調べているとも報道されています。

カルテルや入札談合は独占禁止法で禁止されている行為(写真:写真AC)

カルテルや入札談合は、独占禁止法により禁止されているものです。カルテル、入札談合、独占禁止法、公正取引委員会、課徴金…これらの言葉は、コンプライアンス研修や報道等でよく耳にされるものであると思いますし、その意味では、これらは身近なものであるともいえます。しかしながら、独占禁止法の難解さにも起因して、これらの概念や関係性等を正確に理解されている方は少ないのではないでしょうか。

独占禁止法の理解は、コンプライアンスの確保やガバナンスの構築にとって避けては通れないものです。これから複数回に渡って同法の主要な点を取り上げてご説明することにより、読者の皆様の独占禁止法についてのご理解の一助になればと思っています。

独占禁止法の正式名称と目的

通常「独占禁止法」と呼び習わされていますが、同法の正式名称は、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」です。本連載では、通例に従い、独占禁止法と表記することにします。

独占禁止法の目的は、「私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進すること」(1条)とされています。

一文が長くて読みづらいものになっていますが、独占禁止法の究極的な目的は、①一般消費者の利益の確保と②国民経済の民主的で健全な発達の促進であり、直接的な目的は、公正かつ自由な競争の促進です。そして、それらの目的を達成するための手段として、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法の禁止などが位置づけられているといえます。