2023/03/23
寄稿>弁護士による法制度解説

独占禁止法の主要な点を弁護士・公認不正検査士の山村弘一氏に解説いただく短期集中寄稿。前回は同法の3本柱に違反した場合の制裁の一つである排除措置命令について説明しましたが、今回はもう一つの制裁である課徴金納付命令について説明します。東京五輪・パラリンピックをめぐる談合事件でも、巨額の課徴金額(見込み)が話題になったところです。
東京弘和法律事務所/弁護士・公認不正検査士 山村弘一
はじめに
前回、独占禁止法の3本柱とされている、①私的独占の禁止(3条)、②不当な取引制限の禁止(3条)、③不公正な取引方法の禁止(19条)に違反した場合の制裁のひとつである排除措置命令(7条・20条等)についてご説明しました。今回は、もうひとつの重要な制裁である課徴金納付命令(7条の2、7条の9、20条の2等)についてご説明します。
この課徴金納付命令については、東京オリンピック・パラリンピックをめぐる談合事件について、「広告最大手『電通グループ』など各社の受注総額は計約437億円と巨額だ。公取委は起訴された6社を軸に審査する方針で、課徴金額は数十億円規模に上るとみられている」(時事通信社により3/1(水) 7:10に配信された記事より引用)と報じられ、近時、話題になったものです。
課徴金納付命令の法的性質

課徴金納付命令の法的性質については、前回ご説明した排除措置命令と同様です。すなわち、独占禁止法違反に対しての広い意味での「制裁」であるといえますが、刑事司法手続を経て科せられる刑罰ではなく、行政である公正取引委員会によって命じられる行政処分として設けられているものです。違反事業者等に対して、課徴金を国庫に納付することを命じるものであり、金銭的不利益を課す行政処分であるといえます。
課徴金納付命令までの手続の流れ
前回、排除措置命令までに手続の流れについて、刑罰と対比しながらご説明しました。これに関しては、課徴金納付命令についても、①報告・自主申告等の調査の端緒→②公正取引委員会による調査という手続が排除措置命令の場合と共通しています。
また、これに加え、③公正取引委員会による通知→④指定職員の主宰による意見聴取という手続についても、排除措置命令を出す場合として設けられている諸規定(49条~60条)が課徴金納付命令の場合に準用されていますので(62条4項)、共通ということになります。
これらの手続を経て、⑤公正取引委員会より課徴金納付命令が出されることになるのです。
課徴金納付命令を出す際には、「文書によって行い、課徴金納付命令書には、納付すべき課徴金の額、課徴金の計算の基礎及び課徴金に係る違反行為並びに納期限を記載し」なければならないものとされています(62条1項)。
なお、上記①~④の各手続についてお知りになりたい方は、前回の第4回をお読みください。
寄稿>弁護士による法制度解説の他の記事
- 【第6回】要点概説・独占禁止法―コンプライアンス確保・ガバナンス構築のために―
- 【第5回】要点概説・独占禁止法―コンプライアンス確保・ガバナンス構築のために―
- 【第4回】要点概説・独占禁止法―コンプライアンス確保・ガバナンス構築のために―
- 【第3回】要点概説・独占禁止法―コンプライアンス確保・ガバナンス構築のために―
- 【第2回】要点概説・独占禁止法―コンプライアンス確保・ガバナンス構築のために―
おすすめ記事
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/03/05
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/03/04
-
-
-
トヨタが変えた避難所の物資物流ラストワンマイルはこうして解消した!
能登半島地震では、発災直後から国のプッシュ型による物資支援が開始された。しかし、物資が届いても、その仕分け作業や避難所への発送作業で混乱が生じ、被災者に物資が届くまで時間を要した自治体もある。いわゆる「ラストワンマイル問題」である。こうした中、最大震度7を記録した志賀町では、トヨタ自動車の支援により、避難所への物資支援体制が一気に改善された。トヨタ自動車から現場に投入された人材はわずか5人。日頃から工場などで行っている生産活動の効率化の仕組みを取り入れたことで、物資で溢れかえっていた配送拠点が一変した。
2025/02/22
-
-
現場対応を起点に従業員の自主性促すBCP
神戸から京都まで、2府1県で主要都市を結ぶ路線バスを運行する阪急バス。阪神・淡路大震災では、兵庫県芦屋市にある芦屋浜営業所で液状化が発生し、建物や車両も被害を受けた。路面状況が悪化している中、迂回しながら神戸市と西宮市を結ぶ路線を6日後の23日から再開。鉄道網が寸断し、地上輸送を担える交通機関はバスだけだった。それから30年を経て、運転手が自立した対応ができるように努めている。
2025/02/20
-
能登半島地震の対応を振り返る~機能したことは何か、課題はどこにあったのか?~
地震で崩落した山の斜面(2024年1月 穴水町)能登半島地震の発生から1年、被災した自治体では、一連の災害対応の検証作業が始まっている。石川県で災害対応の中核を担った飯田重則危機管理監に、改めて発災当初の判断や組織運営の実態を振り返ってもらった。
2025/02/20
-
-
2度の大震災を乗り越えて生まれた防災文化
「ダンロップ」ブランドでタイヤ製造を手がける住友ゴム工業の本社と神戸工場は、兵庫県南部地震で経験のない揺れに襲われた。勤務中だった150人の従業員は全員無事に避難できたが、神戸工場が閉鎖に追い込まれる壊滅的な被害を受けた。30年の節目にあたる今年1月23日、同社は5年ぶりに阪神・淡路大震災の関連社内イベントを開催。次世代に経験と教訓を伝えた。
2025/02/19
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方