独占禁止法には3本の柱がある(写真:写真AC)

カルテルや入札談合は独占禁止法によって禁止されていますが、これらの概念や関係性を正確に理解するのは簡単ではありません。コンプライアンス確保・ガバナンス構築に不可欠な独占禁止法の理解を深めるため、主要な点を弁護士・公認不正検査士の山村弘一氏に解説いただきます。第3回は独占禁止法の3本柱について取り上げます。

東京弘和法律事務所/弁護士・公認不正検査士 山村弘一

弁護士・公認不正検査士/東京弘和法律事務所。2006年慶應義塾大学文学部人文社会学科人間関係学系社会学専攻卒業、09年同大学大学院法務研究科法学未修者コース修了、10年弁護士登録、21年公認不正検査士(CFE)認定。一般企業法務、一般民事事件等を取り扱っている。スポーツ法務についても、アンチ・ドーピング体制の構築をはじめとして、スポーツ・インテグリティの保護・強化のための業務に携わった経験を有する。また、通報窓口の設置・運営、通報事案の調査等についての業務経験もある。

はじめに

独占禁止法において「事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない」(3条)、「事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない」(19条)と規定されています。これらで規定されている、①私的独占の禁止(3条)、②不当な取引制限の禁止(3条)、③不公正な取引方法の禁止(19条)を合わせて、独占禁止法の3本柱であるといわれています。

今回は、この3本柱について詳しくご説明したいと思います。

3本柱:①「私的独占」とは

「私的独占」とは「事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもつてするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」(2条5項)と規定されています。

簡潔にいえば、不当な方法を用いて、他の事業者を「排除」又は「支配」することによって、競争を実質的に制限することを意味します。

妨害や支配など競争を制限する行為が禁じられている(写真:写真AC)

まず「排除」とは、「新規参入事業者の事業開始を困難にしたり(市場への参入妨害)、他の事業者の事業活動の継続を困難にさせることであり(「排除型私的独占」)、その手段としては、不当な安値販売や差別対価、排他条件付取引などがあ」る(『独占禁止法ガイドブック(令和4年12月改訂版)』、公益財団法人公正取引協会(以下「文献Ⅰ」)、12頁)と説明されています。

次に「支配」とは、他の事業者の自由な意思決定を困難にして、自己の意思に従わせることであり(「支配型私的独占」)、その手段としては、株式の取得、役員の派遣、取引上の優越的な地位の利用などがあ」る(文献Ⅰ、12頁)と説明されています。

排除型、支配型のいずれにしても、独占する行為が禁止されているのであり、独占の状態を問題としているわけではないということがポイントとなります。

3本柱:②「不当な取引制限」とは

「不当な取引制限」とは、「事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」(2条6項)と規定されています。

事業者が共同して対価を決定するなど競争を制限する行為が禁じられている(写真:写真AC)

事業者間の合意により販売価格や生産量を取り決めるカルテルや、競争入札に参加する予定の事業者間の合意により受注者や受注価格を取り決める入札談合が、「不当な取引制限」の典型的なものになります。このことに照らしても、独占禁止法における3本柱のうち、とりわけ重要となるのが、この「不当な取引制限」であるといっても過言ではありません。

「不当な取引制限」に該当するか否かを判断する際に重要となってくる要件として、㋐「他の事業者と共同して」、㋑「相互に事業活動を拘束し、又は遂行する」、㋒「公共の利益に反して」、㋓「一定の取引分野」、㋔「競争を実質的に制限する」という各文言の解釈が重要になってきます。

㋐「他の事業者と共同して」とは、「事業者間で意思の連絡があることをいう。(中略)他の事業者の違法な行動を知っただけでは足りないが、相互に価格を引き上げることを認識・認容していれば、暗黙の合意として認められる」(『体系経済刑法 経済活動における罪と罰』、佐久間修、中央経済社、2022年(以下「文献Ⅱ」)、127頁)と説明されています。

明示的な合意でなくとも、暗黙の合意で足りると解されているというところがポイントになります。

㋑「相互に事業活動を拘束し、又は遂行する」につき、まず、「相互にその事業活動を拘束し」とは、「同一の取引分野に属する事業者の間で共同行為の合意があったため、本来は自由であるべき事業活動が拘束されること」(文献Ⅱ、128頁)とされています。

また、これと「遂行する」との関係について、「共同遂行行為は相互拘束に対する独立の概念というより、相互拘束の意味を補完し、把握の対象を遺漏のないように加えられた従属的な観念であるとして、共同遂行行為に独自の意味を持たせない考え方が通説」(『新経済刑法入門[第3版]』、斉藤=浅田=松宮=髙山編著(中里浩執筆部分)、成文堂、2020年(以下「文献Ⅲ」)、233・234頁)と説明されています。

つまるところ、この要件については、相互拘束に当たるか否かがポイントになるといえます。

㋒「公共の利益に反して」とは、「自由競争経済秩序に反すること」であり、「これまでの判決でも、赤字回避の必要性、中小企業の保護、国家プロジェクトなどの目的の下、談合、カルテルが容認されるという主張はいずれも退けられている」(文献Ⅲ、233頁)とされています。

これに照らせば、「公共の利益に反しないから、不当な取引制限に当たらない」という抗弁が通ることはまずないといって差し支えないでしょう。

㋓「一定の取引分野」とは、「取引の対象となる商品・役割等や取引の相手方、取引段階、取引の区域等が共通であって、競争関係にある事業者により構成された市場または競争圏」のことをいい、「一定の場所や回数等による形式的限定は不要とされる。したがって、1回限りの小規模な取引であってもよい」(文献Ⅱ、132頁)と説明されています。

㋔「競争を実質的に制限する」とは、「自由競争それ自体が消滅・減少した結果、特定の事業者や事業者団体だけで価格・品質・数量などを決定することにより、当該の市場が支配されたことをいう。すなわち、その分野における競争が、全体として有効に機能しない状態をいう」(文献Ⅱ、132頁)と説明されています。

すでにお気づきになられているかと思いますが、3本柱のうち①「私的独占」と②「不当な取引制限」とは、「公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」という文言・要件が共通しているとともに、この点が、残る3本柱のひとつである③「不公正な取引方法」との差異になっています。