排除措置命令は、どのような手続きで課せられる、どのような制裁なのか(写真:写真AC)

独占禁止法への理解はコンプライアンス確保・ガバナンス構築に不可欠。しかしその内容は難解です。同法の主要な点を弁護士・公認不正検査士の山村弘一氏に解説いただく短期集中寄稿。前回は独占禁止法の3本柱を説明しましたが、今回は違反に対する制裁のひとつとして重要な役割を果たしている排除措置命令について解説します。

東京弘和法律事務所/弁護士・公認不正検査士 山村弘一

弁護士・公認不正検査士/東京弘和法律事務所。2006年慶應義塾大学文学部人文社会学科人間関係学系社会学専攻卒業、09年同大学大学院法務研究科法学未修者コース修了、10年弁護士登録、21年公認不正検査士(CFE)認定。一般企業法務、一般民事事件等を取り扱っている。スポーツ法務についても、アンチ・ドーピング体制の構築をはじめとして、スポーツ・インテグリティの保護・強化のための業務に携わった経験を有する。また、通報窓口の設置・運営、通報事案の調査等についての業務経験もある。

はじめに

前回、独占禁止法の3本柱であるとされている、①私的独占の禁止(3条)、②不当な取引制限の禁止(3条)、③不公正な取引方法の禁止(19条)の定義と要件を中心にご説明しました。今回は、これらの違反に対する制裁のひとつとして重要な役割を果たしている排除措置命令(7条・20条等)について取り上げてご説明します。

排除措置命令の法的性質

排除措置命令は、独占禁止法違反に対しての広い意味での「制裁」であるといえますが、刑事司法手続を経て科せられる刑罰ではありません。排除措置命令は、行政である公正取引委員会によって命じられる行政処分として設けられているものです。

排除措置命令は行政処分(写真:写真AC)

端的にいえば、国家権力の三権(立法・行政・司法)のうち、司法権の作用として科せられるのが刑罰(懲役・罰金等)であり、行政権の作用として課せられるのが行政処分であるといえ、排除措置命令は後者に属するものなのです。法的性質という観点では、この点に排除措置命令の特性があるといえます。

排除措置命令までの手続の流れ

刑罰は、大まかに、①通報・被害申告等の捜査の端緒→②捜査機関(警察・検察)による捜査→③検察官による起訴(公訴提起)→④刑事裁判→⑤裁判所による判決(刑の言渡し)、という流れを経て科せられるものです。

これに関連して、憲法31条では、「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」とされており、いわゆる適正手続(デュープロセス)が規定されています。

同条は、直接的には刑罰を科す際の適正手続について規定したものではありますが、行政手続・行政処分についても、その性質に応じて、適用または準用されうるものであると理解されています。こうしたこともあり、公正取引委員会が命じる排除措置命令についても、それに先立つ手続が法定されています。

定められた手続きにのっとって処分が課される(写真:写真AC)

排除措置命令の際の手続について、先の刑罰の際の手続に相当するものとの対応関係で整理すると、大まかには、①報告・自主申告等の調査の端緒→②公正取引委員会による調査→③公正取引委員会による通知→④指定職員の主宰による意見聴取→⑤公正取引委員会による排除措置命令、という流れとなります。

刑罰と排除措置命令の流れについてまとめたのが以下の図表です。なお、これはあくまで両者を類比的に分析・整理したものであり、対置されているもの同士が同一の性質・機能であるという趣旨ではありません。

なお、刑罰の際の手続と比較して特徴的なものとして、確約手続・確約制度と呼ばれるものがあります。これは、違反があると思料される場合において、いわば事業者による自主的な解消・是正を目指す手続・制度として、上記②の手続の後に実施されるものです。

これは、公正取引委員会による通知(48条の2)→事業者による排除措置計画の作成・申請(48条の3第1項)→公正取引委員会による認定(48条の3第3項)、という手続を経ることにより、当該違反について、排除措置命令等が命じられなくなります(48条の4)。そのため、公正取引委員会から48条の2に基づく「通知」を受けた場合には、事業者は、排除措置命令等を免れるためにも、迅速かつ真摯に対応することが極めて重要になってきます。