前回お伝えした母の認知症診断から特養入所に至るまでの道のりは、決して平坦なものではありませんでした。その最大の要因の一つが、私が東京、母が長野という「遠距離介護」の現実です。今回は、東京と長野を行き来しながら直面した様々な課題と、その対応策についてお伝えします。

1.1 物理的距離がもたらす見えない壁

東京から長野の実家まで、自家用車で約3時間、電車利用で約3時間。距離にして200km以上のこの隔たりは、介護においてどのような影響をもたらすのでしょうか。

物理的距離の課題 直面した現実 対応策
緊急時の駆けつけ 深夜の徘徊通報に即応できない セキュリティ会社の緊急対応サービス活用
状態変化の把握 週1回の電話では変化を見逃す リモートカメラ・センサー活用、介護専門職からの定期報告
医療機関との連携 診察に同席できず、医師の説明を直接聞けない 受診日をあらかじめ確認し計画的な同席、オンライン診療の活用
心理的な距離感 「何かあったら…」という不安の常態化 見守りシステムの活用、地域包括支援センターとの信頼関係構築

 

私の場合、夜間の緊急呼び出しがあると、東京からすぐに駆けつけることはできません。そのジレンマと葛藤は、遠距離介護をしている方にしか分からないかもしれません。現実的には「いま出発しても朝になる」という状況で、その夜はリモートカメラで確認しながら、セキュリティ会社や緊急時対応サービスに頼るしかなかったのです。

特に痛感したのは、コロナ禍以降、母の知人や近隣住民との交流が激減したことです。週に2〜3回訪れていた知人も一切立ち寄らなくなり、いざという時に頼れる人的ネットワークが失われてしまいました。これにより、専門職やセキュリティサービスへの依存度がさらに高まってしまったのです。

1.2 「東京-長野」移動の実際 - 時間と費用の現実

遠距離介護において「移動」は大きな負担となります。私の体験から、その実態をお伝えします。

1.2.1 移動手段の比較

交通手段 所要時間 概算費用(片道)

メリット

デメリット

電車(特急・在来線) 約3時間 約5,650円 時間が読める、仕事ができる 駅から実家までの足
高速バス+在来線 約4時間 約4,500円 コスト抑制、終電後も移動可 時間が長い、予約必要
自家用車 約3時間 約8,090円(高速道路4,490円+往復燃料3,600円) 現地での機動力、荷物運搬 疲労、悪天候リスク

 

私は状況に応じて移動手段を使い分けていました。仕事の都合で夕方に出発する場合は電車、荷物が多い時や現地での移動が必要な場合は自家用車というように、その時々の状況に合わせた選択をしていました。特に母の状態が悪化してからは、介護用品や生活必需品を大量に運ぶ必要があり、車の機動力が不可欠でした。

宿泊については、実家が空き家となっていたため宿泊費はかかりませんでしたが、光熱費などの維持費は継続して支払っていました。「いつでも泊まれる拠点」があることは、遠距離介護の大きな助けとなりました。

1.2.2 年間の移動コスト試算(実績ベース)

訪問頻度 年訪問回数 交通費(概算) 実家維持費 合計コスト
2022年 月1-2回 18回 約180,000円 約120,000円 約300,000円
2023年 月2-3回 30回 約300,000円 約120,000円 約420,000円
2024年 月3-4回 42回 約420,000円 約120,000円 約540,000円

 

さらに、介護状態が悪化するにつれて訪問頻度は増加し、2024年には月に3-4回のペースで長野に通っていました。これは年間540,000円という、決して無視できない経済的負担となりました。会社の休暇取得や、複数日にわたる不在の調整も必要で、仕事との両立は年々厳しくなっていったのです。