今回はクライシスコミュニケーションでありがちな組織の過保護対応について、静岡県裾野市のさくら保育園の保育士3名が暴行容疑で逮捕されるに至った事件を例に解説します。なお、事実関係は裾野市の公式見解書と静岡新聞を参考にしています。
保育士が直接謝罪していない
事件が起きたのはさくら保育園の1歳児クラス。昨年の6月から8月上旬、保育士が園児の頭を叩くといった暴行や園児の容姿を馬鹿にした暴言など16項目の不適切な行為が行われました。
これを目撃した同僚の保育士は、園長の通報しないでほしいという依頼を断り、8月17日市に通報。市は通報者と面会して情報を得た後、8月22日にさくら保育園園長と面談。園長はその日のうちに保育士の不適切な行為を確認し、翌日23日に該当する3名の保育士を異動させ、25日に市へ調査報告書を提出。26日に職員会議を実施して再発防止策・改善策を共有。
ここまでの対応は市への通報から10日であり、迅速であるように見えます。しかし、3人の保育士が被害にあった園児とその保護者へ謝罪した行為の記載がありません。あるのは「園児・保護者等への適切な対応をとること」(8月22日の指導内容)と「園が被害者児童及び保護者に個別謝罪を行うよう指導」(今後の市の対応)。つまり、市は園に対して加害者自らが被害者、園児と保護者へ直接謝罪するように指導していません。
さくら保育園は11月29日から数回に分けて保護者会を開催しました。保護者からは「加害者である保育士が直接謝罪してほしかった、説明してほしかった」と報道されていることから、ここでも謝罪はされていなかったといえます。なお、大手メディアが大々的にこの事件を報道するに至ったのは、11月30日に市が記者会見で発表してからです。
直接の謝罪は被害者にとっても加害者にとってもなくてはならないプロセスです。いえ、当たり前ともいえますが、案外、被害者目線が抜けてしまいます。たとえば社員の書き込みで炎上した場合、社員がまず謝罪すべきですが、先に会社が謝罪をしてしまうといった事例は多いのです。
もっと身近なケースだと、いじめた子どもが謝るのではなく親が相手に謝罪してしまう、といったことです。被害者からすると釈然としないのは当然のこと。これは組織の過保護対応です。
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