全体図を見ずしてBCP判断はできるのか
第20回:経営陣のためのBCPポートフォリオ
林田 朋之
北海道大学大学院修了後、富士通を経て、米シスコシステムズ入社。独立コンサルタントとして企業の IT、情報セキュリティー、危機管理、自然災害、新型インフルエンザ等の BCPコンサルティング業務に携わる。現在はプリンシプル BCP 研究所所長として企業のコンサルティング業務や講演活動を展開。著書に「マルチメディアATMの展望」(日経BP社)など。
2022/12/19
企業を変えるBCP
林田 朋之
北海道大学大学院修了後、富士通を経て、米シスコシステムズ入社。独立コンサルタントとして企業の IT、情報セキュリティー、危機管理、自然災害、新型インフルエンザ等の BCPコンサルティング業務に携わる。現在はプリンシプル BCP 研究所所長として企業のコンサルティング業務や講演活動を展開。著書に「マルチメディアATMの展望」(日経BP社)など。
前回は、BCP情報の可視化が経営判断を早めるというお話をしました。今回のテーマは少し広げて、対策本部(経営陣)のためのBCPポートフォリオの策定についてです。
今あるBCP、BCMSの策定内容やBCP訓練が100パーセント満足できるものであったとしても、実際にそれらが事業継続という重い経営判断にどの程度反映するのかは、企業文化や経営陣の危機管理意識、危機管理感度という目に見えないものに左右されます。その意味では、BCPは非常に危ういものをはらんでいるといえます。
毎年、事務局を中心に対策本部BCP訓練が粛々と行われ、現場では対策本部に向けた被災情報やBCP関連情報が整然と報告されます。その時、経営陣は有事の状況報告に接し、情報をどのように活用するのか、その意識や術を持っているのか、事業復旧や事業継続の判断に関する理解度は十分なのか。
現場(事務局)がBCPの実効性に不安を感じているのは、自らのスキル不足や司令塔足らんとする能力不足だけでなく、経営陣に適切な有事の判断をしてもらえるのかという疑問があるからだと思います。
今回は経営視点を持ったBCP、つまりBCPポートフォリオの策定の必要性とその中身についてお話します。
対策本部の事務局や情報収集のための各チーム・部門の担当者は、初動マニュアルやBCPマニュアルに従って「行動」が定められています。しかし「経営陣が発災直後から行う行動」を定義している企業はほとんどありません。
私が行っているBCPセミナーでは、有事に際し、定期的に経営会議を行う「時間」と「場所」を設定することを推奨しています。災害心理学的にも、責任の重い経営陣のメンタルを安定させるため、自分の立ち位置と取るべき行動を設定してあげることは重要です。有事の際、定例の役員会議室に自分の座る椅子があるだけで彼らの精神状態は安定し、正常性バイアス回避にも役立ちます。
行動マニュアル的にいえば、例えば発災初日は3時間後に最初の臨時危機管理委員会を開催し、役員全員を招集します。ここでは、発災から2時間以内に集められた情報を全役員が把握することから始めます。
次は同日の6時間後、翌日からは情報確認として午前10時、検討判断として午後4時頃を定例とし、リモートも活用したうえで、最低連続5日間(土日も含む)行うよう設定します。ここは秘書室などが主導し、手順書をマニュアル化し、全役員に事前に了承を得ておきます。
大きな拠点被災地図や災害BCP対策本部ポータルを写したスクリーンなどの「BCPポートフォリオ」を準備し、本番環境に寄せてつくり込んだ危機管理委員会会議室への集合訓練(10分程度)も実施しておきます。役員全員が「設えを見る」こと、「自分の椅子に座る」ことだけで、有事におけるメンタルの安定に効果があります。
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