法制度の枠を超えた多様な支援がないと被災を支えられない時代(写真:写真AC)

「被災者支援のあり方検討会」は、質の高い被災者支援の仕組みづくりの中長期的な検討を目的に内閣府が設置した有識者会議。介護・福祉や防災の関係者がメンバーとなり、筆者が座長を務めている。これまで、第3回議事要旨(アミがけ部分)の重要なポイントを報告してきたが、今回はその最終回。「住まいの確保・改善」「多様な主体による被災者支援の充実」を解説する。

1.住まいの確保・改善について

(議事要旨)
災害救助法に基づく応急修理は「応急」なので緊急的な措置に特化し、ある程度落ち着いてからの修繕は現物給付ではなく補助の形で速やかに支援できれば、被災者の生活再建につながるのではないか。また、いつまでも現物給付としていると、契約行為が発生するため、規模の大きな政令市でもマンパワーが不足する。一般の事務職員でも対応できるような制度に見直していくべきではないか。

応急修理は、大規模半壊・中規模半壊・半壊で1世帯当たり65万5000円以内、準半壊で1世帯当たり31万8000円以内の修繕費用が救助法で支給される。

いくつかの課題があるが、第1に上限金額が少な過ぎる。半壊以上もの被害を受けながら65万5000円で応急修理に必要な費用をすべて賄うのはほぼ不可能である。

たとえばボランティアが雨漏り対策として屋根にブルーシートを展張したとする。しかし、屋根瓦の本格的な修繕には150万円~250万円必要だ。その負担ができないことにより、徐々に雨水がしみ込んで家屋が腐朽して住めなくなってしまう。

その結果、高齢者等が自宅を失ってその土地で再建できなければ、住み慣れた地域を離れて、応急仮設住宅、災害復興住宅など別の土地で新たな生活を始めなければならない。これまでのコミュニティによる支援がほとんどなくなり、心も体も弱くなっていく。

また、公的負担についても応急修理費用よりも高額な応急仮設住宅や復興住宅が必要になる。すなわち、現在の超高齢社会では、災害時に自力復興の原則を叫んでも立ち直れない高齢者が著しく増加している。

したがって、第2に救助法による無差別的な一律支援に加え、福祉政策による個別支援が必要だ。これを、近年では災害ケースマネジメントという。被災者の資力、要支援度、年齢などによる困窮度を踏まえて、自立に向けてどのような支援をすべきかを検討しなくてはならない。しかし、被災し多忙を極める自治体にこのような災害ケースマネジメントを押し付けても、現実に実施するのは困難である。

そこで、官民連携した被災者支援センターのようなものを立ち上げ、平常時の福祉支援を行っている関係者の応援による災害ケースマネジメントを行うことが必要と考える。

第3に、手続きの煩雑さだ。救助法は現物給付が原則だが、このため自治体も、事業者も、被災者も事務負担は下のように非常に大変だ。

これが数百件、数千件となった場合、契約にはある程度の専門知識も必要なため、自治体は迅速に事務処理することは不可能だろう。事業者も災害時の多忙な時に65万5000円以内の工事で煩雑な事務処理をしたいと思うだろうか。

むしろ、罹災証明が出た段階で、被災者が工事業者に発注して応急工事をしてもらい、その工事費用に補助金を出す方が、よほど迅速で事務負担が軽くなるのではないだろうか。税を使った支援だからといって、平時と同様の厳格な手続きを追求するよりも、被災者の迅速な支援という緊急性に鑑みて簡明な方法を検討する必要がある。

(議事要旨)
みなし仮設の場合には、被災直後に確保できた物件へ取り急ぎ入居する場合も多いが、入居した物件や世帯の状況に応じて別の物件へ移ることを認めるかどうかについて、議論すべきではないか。

これも、現場によくある事例だ。多くの被災者は避難所よりは応急借上げ住宅(みなし仮設住宅)の方が環境がよいことから、多少の不満はあっても急いで入居する。しかし、生活していくうちに通勤通学、買い物、手狭さなどで不便を感じることも多い。災害直後は物件が少ないために、やむを得ないと思っても、その後によい物件が出てくると移りたいとなる。

住まいの再建は生活を立て直すうえでの被災後の最重要課題(写真:写真AC)

しかし、救助法の実務運用では「就学・就労等の個人的な生活環境の変化による仮設住宅の住み替え(建設型→賃貸型、賃貸型→賃貸型、公営住宅→賃貸型または建設型)は、応急的な救助の範囲を超えることから、原則、認められないところである」とあり、住み替えについて大家の更新拒否、DVや健康被害など厳格な例外規定を例示している。

これは、公的支援を受けている被災者なのだから我慢するのが当然、ということにならないだろうか。被災者の自立支援のために、現場でどう運用したらよいかを検討する災害ケースマネジメントがここでも求められている。