地区内に安全な場所はない 

一方で、まだまだ課題もある。地区内に、完全に安全と言える施設は今のところ存在しない。災害対策本部が設置される長野市長沼支所に至っては、千曲川の堤防からわずか数十mの場所に位置し、最も被災しやすい場所といっても過言ではない。かといって代替施設を置く場所が近くに存在するわけでもない。計画上では、「支所が退去せざるを得ない場合は市に代替場所を要請する」としたが、市としてもあらかじめ候補地が提供できない状況にある。

避難情報の伝達方法にも不安が残る。市では防災無線を使って避難情報を出すが、地区特有の情報をどのように出すのかは今後も議論が必要だ。全住民には防災ラジオを配布しているが、これらが有効に機能するかの検証もしなくてはならない。

防災に満点は存在しない。まずは合格点を満たすために同地区では、今後も計画を繰り返し見直していくことにしている。そして、計画通りに、あるいは計画に基づきながら柔軟に意思決定できるように、今後は訓練のあり方も検討していく予定だ。

長野市では、今後、長沼地区をモデルに、各地区に地区防災計画の策定を提案していくことにしている。都市と山間部という多様な側面を持つ自治体が、各地区に特性に応じてどのように防災体制を整えていくのか、今後も注目される。

取材:地区防災計画アドバイザー 中澤幸介