石川県と福井県の県境にオープンした「越前加賀県境の館」
県境をまたいで地区防災計画の策定に取り組む地区がある。石川県加賀市三木地区の吉崎町と福井県あわら市吉崎にまたがる吉崎地区だ。歴史的背景から、町の中に県境を引かれてしまい、県をまたぐと同じ土地でも津波の被害想定が違うという事態が発生。地区防災計画の策定を機に、これまであいまいだった防災計画の見直しを図っている。住民主体だからこそできる県境をまたいだ防災計画の策定は、地区防災計画の新しい可能性を示唆している。

編集部注:この記事は、2015年3月発行の地区防災計画学会誌「C+BOUSAI Vol3」に掲載した記事をWeb記事として再掲載したものです。役職などは当時のままです。(2016年6月15日)

石川県加賀市三木地区の吉崎町と福井県あわら市吉崎にまたがる吉崎地区

「同じ地区内なのに、県をまたいだだけで津波の被害想定が違った。石川県側(以下、加賀吉崎)の想定は高さ最大8.1mの津波が押し寄せ、浸水は最大8.2m。それに対して福井県側(以下、越前吉崎)の想定では津波が最大5.4mで、浸水は2mとなっていた。加賀吉崎で必死に避難訓練をしていても、越前吉崎では何を大げさなことをしているのかという状況だった」と話すのは、三木地区まちづくり推進協議会・三木地区自主防災会の事務局長を務める竹本利夫氏。

 

そもそも、同じ地区内を県境が走るのは全国的に見ても珍しく、そこには歴史的な背景がある。吉崎地区は15世紀末の室町時代、蓮如上人が浄土真宗布教のために吉崎御坊を構え、寺内町として発展してきた。後年、明治に入って県境が引かれる際、蓮如上人の吉崎御坊と、それに隣接した国指定天然記念物「鹿島の森」をどちらの県に入れるかで話し合いが持たれた。結果として吉崎御坊は福井県に、鹿島の森は石川県に属することになったが、このことが複雑な県境を生んだ背景となった。町内に県境が走り、越前吉崎に家屋、加賀吉崎に庭を持つ家もできてしまったという。