行動制限は新型コロナ対策として有効だったのか(写真:写真AC)

感染症対策のイロハのイは、感染者を特定し隔離して感染拡大を防ぐことであり、これに異論を唱える人はいないだろう。しかし「だから感染流行時には行動規制が必要だ」とするのは論理が飛躍し過ぎていると気付く人は多くない。実際、ここまでの状況を客観的に見る限り、強力なロックダウンでなければ行動規制で感染抑止に効果があったとはいえないだろう。

これは原理原則が間違っているからではなく、原理原則と対策の論理的不整合が原因なのである。例えば「感染者を特定」というが、その方法が問題である。一般的にPCR検査がその手法とされているが、偽陰性と偽陽性の問題、さらに非感染陽性の問題を統計的に検証すれば不適切であることは明確、検査はあくまで治療方針決定のための確定診断に留めるべきものなのだ(本連載第10回:プロパガンダ情報の伝えるPCR検査とその現実)。

感染リスクを拡大させるとして中断に追い込まれたGoToトラベル(写真:写真AC)

最初の緊急事態宣言の頃は未知の部分も多く、安全寄りの判断で宣言が発出されたのは仕方がないだろう。だが、その後さまざまなデータが積み上げられ、経済復興のためにGoToトラベルという施策も行われたが、不安を煽る勢力から「人流イコール感染拡大リスクだ」とされ、中断に追い込まれた。では、実際にGoToトラベルと感染拡大に因果関係はあったのだろうか。

GoToトラベルと感染リスクの因果関係

「人流=感染拡大リスク拡大」という結論は本当に正しいのか(写真:写真AC)

「GoToの利用経験と新型コロナウイルス感染症を示唆する症状との関連について」という論文が、2020年12月6日に公開された。査読前だが、緊急性が高いという趣旨での公開であった。そしてメディア、専門家、野党議員はこぞって、結論として「GoToは感染リスク高い」が研究結果だと伝えたのだ
※「GoToトラベル利用者に発症2倍 東大チーム初調査 味覚異常などコロナ疑い」(東京新聞web)、「GoToトラベル『感染リスク高い』調査結果を発表」(テレ朝news)など

一部のメディアは、同時に論文内記載の限界点も伝えてはいるが、一般社会では十分伝わる言い方には思えず、誤解が広まる結果になった。

このような状況で、詳細の確認が必要と当時感じたので、通読してみたところ、誤謬性の高い部分が散見された。確かに統計データ処理にはかなり気を使って精度を向上しているが、データを元にした考察では、結論ありきの感が否めなかった。意図した結論に導くためのデータ分析に終始しながら、結局のところ結論には導けなかったという内容だった。

その後、同論文は2021年4月16日に追記され、査読付きの国際医学誌であるBMJ Openに掲載されたのだが、プレプリント版よりも多くの変数で補正しているものの結果は変わっていない。