様々起こり得る危機事象の種類に因らず、結果として経営リソースが大きなダメージを受けた際にも、お客様との信頼関係を損なうことなく、より強固で長期的な関係性を維持することを目指して、柔軟かつ臨機応変に対応でき、かつ企業の永続性につながる強い組織力について2回に分けて考えてみます。
1.はじめに
2011年3月11日の東日本大震災発生から10年以上が経過。我々はあの大震災で想定外の事が次々起こるということを学びました。そして「想定外の事が起こり得るんだ」と常日頃から想像する力が、危機対応時に必須のスキルだと改めて学び直しました。
大規模地震だけでなく、気候変動、線状降水帯による記録的短時間大雨、新型コロナウイルスや高病原性鳥インフルエンザによるパンデミック、身代金ウイルスなど拡大するサイバー攻撃の巧妙な手口など、企業を取り巻く様々な危機事象が企業経営を脅かしています。急激な経営環境変化をもたらすリスクインパクトに備えて、被害を最小化する効果的な事前対策を実施するのはもちろんですが、想定外の危機的状況が発生しても迅速な行動ができるように準備をすることが肝要です。
2.危機対応への取り組みに関する課題認識
(1)発生確率について思うこと
日本国内の上場企業が着目しているリスクの種類調査*1によると、1位は「疫病の蔓延(パンデミック)等の発生」、2位は「異常気象(洪水、防風など)、大規模な自然災害(地震・津波・火山爆発・地磁気嵐)」、3位は「サイバー攻撃・ウイルス感染等による情報漏洩」です。2020年より猛威を振るっているCOVID-19が既存のBCPの想定を超え、事業継続が困難になった企業が続出しています。
過去を振り返ると、地震の怖さを改めて知らされた阪神・淡路大震災(1995年)、原発事故など想定外の事象が立て続けに発生した東日本大震災(2011年)、地震発生確率が低いと思っていた場所で震度7が2度発生した熊本地震(2016年)、異常気象による猛暑・豪雨・スーパー台風・竜巻・大雪など含め、大きな災害が発生するたびに甚大な被害に見舞われています。誤解を恐れずに換言すれば我々は色々な被災経験をし、そこから多くの「教訓」を獲得し成長してきました。
今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率「全国地震動予測地図2020年版」*2が公表(2021年3月26日)されました。様々なパターンの地震で揺れる確率と、地盤の揺れやすさを合わせて作成されており、太平洋側で高い確率となり、28県庁所在地で前回調査よりも発生確率が増えています。
実は、この発生確率が我々の判断を惑わせる要素の一つではないかと筆者は考えています。例えば、首都直下地震は30年以内に70%、南海トラフ地震は30年以内に70~80%、北海道千島海溝沿い地震は30年以内に7~40%と予測されています。この各々の確率が高いのか低いのか、どう判断すればいいのかなかなか難しい。政府の地震調査委員会も、3%(約1000年に1回の頻度)を上回れば「確率が高い」と分類しています。
専門家の分析によると、南海トラフでは過去1400年間に約90~150年の間隔で、熊本地震の震源付近は3000年に一度の割合で、首都直下地震も過去220~300年の間隔で地震が発生しています。国内の約2000の活断層のうち調査されたものは114で、大地震を起こす可能性があるのは約70と言われています。現在、世界中で発生しているCOVID-19のような新型感染症の爆発的な世界的流行(パンデミック)も10年から40年の周期で起こっている既知のリスクなのです。
(2)ブラックスワンを考える
事前予測が困難だが発生すると大きな衝撃をもたらす「ブラックスワン」に対比して、いずれ起きると分かっているが問題を放置し大きな被害となることを「ブラックエレファント」と呼びます*3。新型コロナウイルスの世界的流行は後者で、いつかは起きるのが明白なリスクだったが対策が不十分でした。
危機的状況が発生するのか否かといった議論ではなく、発生周期の長短こそあれいずれ必ず発生し、かつ大きなダメージを受けることを前提として考える必要があります。発生することは明白だが、それはいつなのか、どこで、どんな規模で、どれくらいの被害をもたらすのかの結果が予測できないのです。原因事象の発生確率に憂慮するのではなく、危機発生は防げず経営リソース(社屋や工場、人、IT等)が非常に大きなダメージを受けるという結果事象を理解し、爆発的なスピードで拡大する被害を速やかにキャッチアップし、損失をコントロールできる組織対応能力を備えるべきという方向に考え方が変化してきました。
ブラックスワンの考え方は、想定外の事象が起こる確率などそもそも正確には分からないので、想定外が起こった時の影響評価を迅速に行なうことが大切ということです。そういう事象に自分達が遭遇し、想定外の事象が起こって経営リソースに甚大なダメージが生じた際、いかに速くその影響範囲・損失額を見極められるかが次の戦略決定上、非常に大事になります。そのためには、被災直後のビジネス影響度分析を迅速に行なうための様々な準備が必要です。
我々は数多くの想定外の危機事象に遭遇しても迅速な復旧を目指す経験知を蓄積してきたことで、危機的状況にできるだけ陥らないよう平常時に行なう予防・減災対策を中心とする「リスクマネジメント」から、不測の事態に直面してからの「クライシスマネジメント」へ、「転ばぬ先の杖」から「転んでもすぐに起き上がる」へと考え方が変化してきたと筆者は考えています。
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