企業倫理とコーポレートガバナンス
ビッグモーター事例から学ぶ教訓
大杉 春子
コミュニケーション戦略アドバイザー 。民間企業・地方自治体・省庁などのパートナーとして、PR戦略の策定から広報物の制作監修まで幅広い支援を行う。日本でのERC普及を目指し、2020年に日本リスクコミュニケーション協会を設立し、国内外の専門家を束ねる。リスク管理からBCP/BCM、危機管理広報までを網羅した新たなリスクコミュニケーションのスキルを持った『リスクコミュニケーター』の育成を展開。
2023/07/21
寄稿
大杉 春子
コミュニケーション戦略アドバイザー 。民間企業・地方自治体・省庁などのパートナーとして、PR戦略の策定から広報物の制作監修まで幅広い支援を行う。日本でのERC普及を目指し、2020年に日本リスクコミュニケーション協会を設立し、国内外の専門家を束ねる。リスク管理からBCP/BCM、危機管理広報までを網羅した新たなリスクコミュニケーションのスキルを持った『リスクコミュニケーター』の育成を展開。
「クルマを売るならビッグモーター」のキャッチフレーズでお馴染みの大手中古車販売業者ビッグモーターが、保険金不正請求問題で注目を集めています。今回の記事では、ビックモーターの事例を通じてコーポレートガバナンスの重要性と、企業が直面するリスクについて解説していきます。
まだ知らない方のために整理すると、本件はビックモーターが損害保険大手各社に対し、修理費用を水増しして保険金を不正請求していたというものです。その手口とは、ゴルフボールを靴下に入れて車体を叩いたり、ドライバーで傷をつけたりするなど、意図的に追加の損害を作り出すことでした。これらの不正行為は5年以上も前から行われていたとの報告があります。
それでは、なぜこのような不正が生じたのでしょうか。その背景には「厳しいノルマ」が存在していたことが明らかになっています。ビッグモーターは、事故車両の修理費用について、1台あたり14万円前後のノルマを設定していました。しかし、本来、修理費用は車両の損害状況によって決まるべきです。この理不尽なノルマを達成するため、現場で不正行為が生じる土壌が醸成されていたのです。
さらに、特別調査委員会の報告書では、「不合理な目標設定」「経営陣に盲従し、付度する歪な企業風土」「現場の声を拾い上げようとする意識の欠如」などが問題の原因と指摘されています。こうした問題は、企業全体のコーポレートガバナンスが欠如していることを示しており、その結果、1978年設立以来40年以上にわたるビッグモーターの信頼が一瞬で失墜しました。
この事例から学べるのは、コーポレートガバナンスの導入と強化が、企業の健全な成長と信頼の維持には不可欠であるということです。しかし、企業風土を転換し、コーポレートガバナンスに真剣に取り組むことはなかなか難しい課題です。このような状況で有用な方法の一つとして、メディア対応を含むコミュニケーション戦略のリスク対策があります。
著者が主催するワークショップ研修では、企業のリーダーたちと一緒に、不測の事態にどのように対応すべきかを具体的に考察します。その一例として、もし企業の不正行為がメディアに露呈した場合や、社員がハラスメントの問題により自ら命を絶つという悲劇が起こった場合など、具体的なシナリオにもとづいて対応策を討議します。
この討議は決して抽象的なものではなく、具体的な行動計画の形成に結びつくものです。
メディアや公衆に対して、伝えるべきメッセージは企業の価値観、つまり企業の姿勢を如実に表すものでなければなりません。そのため、ここで取り組むのは、ただ単に耳あたりの良いフレーズを見つけることではありません。企業全体として、どのような価値観を持ち、どのようなスタンスを取るべきかを検討する作業が必要となります。
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