2016/05/04
誌面情報 vol53
-->
被害が拡大した理由は直後の行動
御岳山の噴火では、火口からたくさんの石が飛んできて、山頂近くにいた多くの方が犠牲になりました。ゴルフボールぐらいの大きさのものから、数十㎝ぐらいのものまで。犠牲者が増えた理由は、まずは噴火のタイミングです。天気の良い日で絶好の登山日和で、さらに悪いことにお昼のちょっと前でした。皆、見晴らしのいいところに弁当を持って行って食べようとしていた時間帯です。もう1つの原因は噴火の最初にクライマックスが来たことです。1番激しい状態が、噴火とほぼ同時に起きたわけです。1979年に御嶽山では史上初の噴火を起こしましたが、この時は最初に火山灰がブワッと吹き出すぐらいで、それから数時間が経って今回のような石をバンバン吹き出す噴火に変わりました。登山客が山頂にいっぱいいましたが、皆灰が降って来たので、急いで下山し、結果、1人のけが人も出ませんでした。
今回は山頂近くにいた数百人のうち60人ぐらいの方がお亡くなりになったわけですが、かなりの数の方は、噴火と同時に山小屋の中に駆け込みました。山小屋の主人も小屋に入れと言って、それに従った人たちは1人も亡くなっていません。
変な煙がでている、変な雲が出ているというので、写真撮影をしたり、場合によってはそれを背景に記念撮影までしていた方もいました。それが数十秒から1分位経ったところで、空から火山灰が降ってきたのです。一瞬のうちに真っ暗になったはずです。昼間でも自分の手が見えないほどの暗さだったことでしょう。山小屋の前に立っていたとしても、どこに山小屋があるのかもわからない状態ですから、逃げようがないのです。噴火があると、どういう現象が起こるのかを、しっかり理解していると、それなりに身を守ることができる場合もあります。
警戒レベル1でも噴火する
噴火警戒レベルは、気象庁が発表するものでレベル1からレベル5まであります。これは住宅地に危険が及ぶのはどのくらいかということで考えられた警戒レベルです。居住地の周辺に影響が及ぶので避難の準備をしたり、あるいは避難しなければいけないという場合にはレベル4、レベル5ということになります。

ほとんどの火山では出されたことがありませんが、口永良部ではレベル5が出されて全島避難になりました。桜島でも一旦レベル4に上げたことがありますが、ほぼ一瞬だけでした。それ以外はほとんどの場合レベル3までです。レベル3は、火口から居住地区まで数㎞から4㎞ぐらいの範囲は危ないかもしれないが、それより遠ければ上から火山灰が降って作物が影響が受ける程度で人命には影響がないというレベルです。
ただし、問題はレベル1の時で、「平常」という言葉を使ったことで、平常というのは噴火が起きない状態だと思われてしまったかもしれないとの反省があり、今は「活火山であることに留意」という言葉に変えました。ですから活火山である以上、いつ何時でも、噴火が起こるかもしれないことに注意すべきです。
この噴火警戒レベルが作られてから、多くの人が「噴火警戒レベルがあるのだから、気象庁は予知をしてレベルを上げて噴火前に知らせてくれるだろう」と思い込んでしまっていますが、実は違います。この噴火警戒レベルを引き上げる時には、噴火が発生してから上げることもあるし、あるいは噴火の恐れがあることがわかって上げることもあります。つまり、予知ができないこともあることを前提にしているわけです。
誌面情報 vol53の他の記事
- 車両燃料の不足はなぜ起きた
- 特別寄稿 災害医療に必要な非日常性(上)
- 札幌に本社設立でBCMを強化
- 期待高まる災害救助犬
- 巻頭インタビュー 火山噴火予知連絡会会長 藤井敏嗣氏
おすすめ記事
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/01
-
-
-
-
-
全社員が「リスクオーナー」リーダーに実践教育
エイブルホールディングス(東京都港区、平田竜史代表取締役社長)は、組織的なリスクマネジメント文化を育むために、土台となる組織風土の構築を進める。全役職員をリスクオーナーに位置づけてリスクマネジメントの自覚を高め、多彩な研修で役職に合致したレベルアップを目指す。
2025/03/18
-
ソリューションを提示しても経営には響かない
企業を取り巻くデジタルリスクはますます多様化。サイバー攻撃や内部からの情報漏えいのような従来型リスクが進展の様相を見せる一方で、生成 AI のような最新テクノロジーの登場や、国際政治の再編による世界的なパワーバランスの変動への対応が求められている。2025 年のデジタルリスク管理における重要ポイントはどこか。ガートナージャパンでセキュリティーとプライバシー領域の調査、分析を担当する礒田優一氏に聞いた。
2025/03/17
-
-
-
なぜ下請法の勧告が急増しているのか?公取委が注視する金型の無料保管と下請代金の減額
2024年度は下請法の勧告件数が17件と、直近10年で最多を昨年に続き更新している。急増しているのが金型の保管に関する勧告だ。大手ポンプメーカーの荏原製作所、自動車メーカーのトヨタや日産の子会社などへの勧告が相次いだ。また、家電量販店のビックカメラは支払代金の不当な減額で、出版ではKADOKAWAが買いたたきで勧告を受けた。なぜ、下請法による勧告が増えているのか。独占禁止法と下請法に詳しい日比谷総合法律事務所の多田敏明弁護士に聞いた。
2025/03/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方