画像を拡大 取材に応じてくれた寿高原食品株式会社代表取締役社長の水井寿彦氏(右)と同社取締役工場長の中村正和氏

 

令和元年東日本台風の千曲川決壊により工場などが浸水

長野県千曲市に本社を置く寿高原食品株式会社は、2019年10月の台風19号で同社の豊野工場が浸水の被害にあった。多くの北陸新幹線が水没した長野新幹線車両センターから1キロメートルほどの距離だ。「過去に千曲川支流の浅川や鳥居川が氾濫したことがあり、2代目の祖父が1.2~1.5メートルの盛り土を実施して建てた工場だった。年間売り上げが約35億の会社で復旧まで6億円ほどの被害が発生した」と説明するのは代表取締役社長の水井寿彦氏だ。

同社はリンゴジュースを日本で初めて商品化した更級ジャム株式会社をルーツにもつ、長野県産の原料を中心に果実の加工を手がける、従業員130人ほどの企業。豊野工場で搾汁したリンゴ果汁100%のストレートジュース「しぼりっぱなし」は、ふるさと納税サイトの「さとふる」のリンゴジュースカテゴリーでトップ3に選ばれている商品だ。

「被災した10月はリンゴの搾汁という作業がスタートする時期。この工場だけでリンゴを5000トン搾る予定だった」(水井社長)

伊豆半島に上陸し、関東地方を通過した台風19号は、接近時から広い範囲で大雨をもたらした。全国で死者は103人、10万棟を超える住宅が被害を受けた。長野市の被害は大きく、千曲川堤防が約70メートルにもわたって決壊。また工場近くの浅川でも内水氾濫が起こった。長野市内では約1540ヘクタールが浸水し、死者は2人、約4000棟の住宅が被害にあった。

「近年、取引先から弊社のBCPを聞かれるアンケートなどが増え、これからBCPを作ろうとする時期に被災した」と水井社長は打ち明ける。

盛り土で底上げをしていた豊野工場の建物だったが、3棟あった工場と事務所棟の全てが浸水した。工場が現在の場所に移ってきたのは1980年。これまでに2度の床上浸水を経験しているが生産に影響が出るような被害はなかったという。

10月13日の時点で豊野工場は水につかったままで入れず、従業員の安否確認でその日は終わる。水の引いた14日に工場に入ると地面は泥まみれで、ドラム缶が散乱していた。「被害にぼうぜんとした。建物の2.7メートルほどのところに浸水の跡があり、浸水の深さは4メートルを越えていたことになる」と水井社長は話す。長野市は最大で4.3メートルの浸水が発生したと推定している。