10年に2度の浸水被害を受けた鉄工所

温暖な気候で知られる岡山県に2度の浸水を経験した企業がある。桃太郎の銅像で有名な岡山駅から南西に15キロメートルほど離れた岡山市の南西部に位置する株式会社モリヤテクノだ。

代表取締役社長・守谷悟氏

「1度目の苦い経験から2度目の浸水では対策がうまくいきました。事業再開までの期間を短縮でき、被害額も抑えられた」と話すのは代表取締役社長の守谷悟氏だ。

大地震を耐え抜く鋼構造物の製造や鉄鋼を曲げる加工に強みを持つ同社は、平成23年と平成30年と最近10年間で2度の浸水被害を受けた。「先代が昭和47年にこの場所に工場を建設しました。長い間、浸水を経験することはありませんでしたが、この10年で2度の浸水の被害を受けました。2度の浸水の間にも、近くにまで水が迫ってきたこともあります。岡山の気候が変わったと実感しています」

モリヤテクノに1度目の浸水被害をもたらしたのは平成23年9月の台風12号だった。この台風は岡山市で床上と床下浸水を合わせて約4600棟の被害を発生させた。「胸までつかるほどの水が本社事務所と3棟の工場を覆いました。ほとんど全ての設備や機材が水没しました」と守谷氏は語る。

画像を拡大 浸水した工場内の様子(モリヤテクノ提供)

同社の中核事業の一つは、独自技術である「SKシャーネット工法」を用いて鉄鋼をクロスし、強度を上げた、ゆがまない屋根の製造だ。耐震性が高いと評価され、全国各地の学校の体育館で採用されている。

1995年にマグニチュード7.3を記録した阪神淡路大震災でも、この工法を用いた野島小学校(旧兵庫県北淡町)の体育館の屋根に被害はなかったという。守谷氏は「調査した野島小学校は阪神大震災の震源地となった野島断層の目と鼻の先にあります。この体育館は1988年に建てられたものです。SKシャーネット工法の屋根は学校を中心に、全国で3000棟の建築実績があります」と胸を張る。

天井にクレーンがつるされている同社の工場には、この屋根の製造やもう一つの事業である鉄鋼を曲げる加工に必要な大型機械が並ぶ。独特なカーブを持つ鉄鋼を求める企業から持ち込まれた依頼が形づくられる場所だ。工作機は地上だけではなく地下ピットにも設置されている。平成23年9月に、この工場内にあるほとんどの設備が水につかり、泥をかぶった。

従業員総出で泥を洗い流したが、機械メーカーの修理にも時間がかかり、復旧までに少なくとも2カ月が必要だった。その後も機械に漏電がたびたび発生し、正常に稼働できず苦しめられたという。被害金額は「売り上げベースで数千万の規模になりました」と話す。そこで浸水対策の立て直しを図ったのだ。