しかし、同組織がオリンピック・パラリンピックに関わるすべての危機管理を受け持つわけではない。都や国、関連団体などと協力してセキュリティ対策に取り組むことになっている。 

競技大会全体の大きな方針は、森喜朗組織委員会会長はじめ、オリンピック担当大臣、文部科学大臣、東京都知事、JOC会長、JPC(日本パラリンピック委員会)会長の6人で構成する「東京オリンピック・パラリンピック調整会議」で決められているが、危機管理に関しても、安全とセキュリティを確保するために必要な措置を講じることができるよう、オリパラ閣僚会議(2020年オリンピック・パラリンピック東京大会等に関する閣僚会議、略称TOGC。議長:安倍総理)の中に関係府省庁によるセキュリティ幹事会を設置し、さらに、テロ対策WT(ワーキングチーム)およびサイバーセキュリティWTを設け連携体制を整えている。TOGCは、オリンピックセキュリティに関わる高度な大綱方針・戦略を策定するとともに、オリンピック警備に関与する政府のセキュリティ機関と相互の業務調整を行い、また、テロなどの重大事件や大規模な自然災害といった国家的緊急事態発生時の危機管理対応を行う。

(編集部注:人名/役職などは掲載当時のままです。2016年8月17日)

政府調整会議 
オリンピック競技大会の期間中、セキュリティに関与する主要な公的機関となるのは、警察庁、警視庁、道府県警察本部、法務省入国管理局および公安調査庁、財務省関税局(税関)、海上保安庁、防衛省・自衛隊、東京消防庁、市消防本部、民間機関(警備業者)など。

警備業者は大会組織委員会(TOCOG)セキュリティ対策本部と契約し、その訓練・管理のもと、オリンピック競技会場をはじめとする大会関係施設の警備業務を担うことになる。大会期間中のセキュリティ活動に投入される現段階での要員の見積りは、全体で5万850人になる見通しだ。 

しかし、国内外から1010万人の観光客・大会スタッフを迎え入れるにあたり、その数は決して十分とは言えない。オリンピックの危機管理を達成させるためには、さらに全国民を巻き込む仕組みが不可欠だ。平時から不審者情報を通報できるようにしたり、災害時の共助の仕組みをしっかりと構築しておくなど、オールジャパンの危機意識向上が求められる。

組織委員会と国の役割 
セキュリティに関しては、まだ動き出したばかりで、具体的な方針なども見えていないが、大会組織委員会セキュリティ対策部門の主要な役割としては、基本計画に以下の項目が盛り込まれている。

①オリンピック競技会場の建設・改修・機器の設置現場における警備のガイドライン(指針)の策定、
②競技会場・非競技会場のセキュリティ計画の策定
③組織委員会内に求められる組織的なリスク管理(人的と物理的)
④民間警備業者の入札、契約、訓練の準備と管理
⑤歩行者及び車輌スクリーニング実施のために必要となる適切なセキュリティ機器の調達
⑥会期間中の民間警備業務の管理
⑦大会期間中の会場セキュリティと緊急事態対応

一方、国は、閣僚会議の中で以下のセキュリティ対策を進めていくことを打ち出している。

①検討体制の設置
②未然防止のための水際対策及び情報収集・分析機能の強化
③競技会場等におけるセキュリティの確保、警戒監視
④被害拡大防止対策等
⑤NBC(核・生物・化学物質)テロ対策
⑥サイバーセキュリティ推進体制の強化
⑦首都直下地震対策の強化
⑧避難誘導対策の強化

東京都・警視庁 
一方、東京都は今年3月に国民保護計画を改訂した。2020年東京五輪への危機管理の視点を踏まえ、緊急対処事態(大規模なテロ等)への対処を重視した内容になっている。テロに迅速に対処するため、特に大規模な集客施設の管理者や事態発生時の現地での活動機関との連携協力の強化を図る。武力攻撃事態としては、①着上陸侵攻、②ゲリラ・特殊部隊による攻撃、③弾道ミサイル攻撃、④航空攻撃を想定する。また、緊急対処事態(大規模テロ等)として、①危険物質を有する施設への攻撃、原発・石油コンビナート等に対する攻撃、②大規模集客施設等への攻撃、ターミナル駅・列車等に対する攻撃、大量殺傷物質による攻撃、③炭疽菌・サリン等を使用した攻撃、④交通機関を破壊手段とした攻撃、航空機による多数の死傷者を伴う自爆テロ等による攻撃を書き加えている。 

警視庁では、今年6月に2020年に向けた新たなテロ対策「国際テロ対策強化要綱」を発表した。イスラム過激派組織「イスラム国」(ISIL)による邦人殺害事件などを受けて検討してきたもので、海外での情報収集の強化やサイバー対策の拡充が大きな柱。デンマークで2月にテロリストが市街地で銃器を持って逃走した事件なども想定した部隊の検討も盛り込んだ。 

サイバー対策では、インターネット上のテロ関連情報を機械的に収集するシステムを開発し、情報分析センターを新設する。アラビア語を話せる人材の育成や海外長期出張者の派遣地域の拡大によって情報収集も強化する。

危機管理の範囲 
大会組織委員会と関連組織の危機管理の色分けは、大まかに言えば、組織委員会としてはオリンピック・パラリンピック大会をやるための準備・運営に関わることということで、基本的には大会が開催される競技会場や選手村に関するセキュリティ対策に責任を持ち、会場の周辺や駅、空港、港などに関する危機管理は管轄する主体がそれぞれ行う。駅から会場、選手村をつなぐ道路などに関しては、今後、調整をして危機管理体制を詰めていくことになる。

(了)