Tokyo stadium ©Tokyo 2020

東京五輪に向け、危機管理ビジネスの成長も期待される。NECは、同社独自の生体認証や行動検知技術などを取り入れたパブリックセーフティ製品と、災害時などのネットワーク負荷を自由に制御できるネットワーク製品を、本大会に対し提案していく。高度なテクノロジーを生かした日本の危機管理ソリューションが本大会で採用されれば、世界にPRする絶好のチャンスになる。

編集部注:「リスク対策.com」本誌2015年7月25日号(Vol.50)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。人名・役職などは当時のままです。(2016年8月22日)

行動検知システム

1日に最大92万人、延べ1010万人もの来場者が見込まれている東京五輪。ほとんどの競技会場が選手村を中心に半径8km圏内に設定され、コンパクトな大会を印象づけている。しかし、裏を返せば7月の暑い時期に、狭隘な地を観光客が埋め尽くす苛酷な状況が生み出されることも避けられない。2001年に起きた明石花火大会の歩道橋事故では、見物客が群衆雪崩に巻き込まれ、死者11人、重軽傷者247人を出す惨事となった。

NECが誇る行動検知システムは、通常時とは異なる人々の異常な行動を探知するというもの。監視カメラなどからの映像を解析し、人々の混雑状況などを素早く検出する。例えば、オリンピック会場への道が激しく混み合うような状況になれば、モニター上で色と警告音で知らせるため、警備本部では、迂回路に誘導させるなど、素早く現場担当者に指示が出せる。人が急に倒れたような場合や暴動が起きたような場合でも、周りの人の流れの異変を直ちに検知する。 群衆だけではない。今まである場所に置いてあったものが突然無くなったり、今まで何もなかった場所に物が置かれるなど、通常時と違う行動があれば、それらも検知することができる。雑踏、犯罪、テロ対策など、オリンピックに限らず広い分野での活用が期待できる。 

この行動解析技術は既に豊島区にも導入されている。区では総合防災システムとして池袋駅など主要駅周辺や幹線道路などに51台の防災カメラを設置しているが、この行動検知システムで映像を解析し、災害時の人々の滞留や帰宅困難者対策などに役立てている。

生体認証システム

指紋、静脈、顔、目の虹彩のパターンを読み取り認証するバイオメトリクスも同社が得意とする分野だ。近年では犯罪捜査や出入国の管理だけではなく、一般企業、医療機関などの入退室管理などにも利用されているが、同社は40年以上の研究開発の歴史をもち、「指紋認証のNEC」とも言われてきた。さらに、近年では顔認証の技術が世界でも突出して評価されている。同社東京オリンピック・パラリンピック推進本部長の鈴木浩氏は「指紋認証と顔認証は米国国立標準技術研究所が実施するベンチマークテストでNo.1だと評価されました。指紋認証はすでに利用されて数十年が経ち、他社との精度の差は縮まってきていますが、顔認証では圧倒しています。検出アルゴリズムの高い精度と照合速度の速さで2009、2010、2013年の連続して3回トップをとり続けています」と胸を張る。 

顔認証は、カメラに映る映像から顔を検出し個人を特定する技術。データーベースに登録された画像をもとに照合すれば、同一人物かが即座に判明する。目・口・鼻などの特徴を正確に検出し、多くの特徴点を効率的に格納し利用することにより、検出精度や認証速度を向上させているのだという。 

これら行動検知技術と顔認証をベースにした監視システムを2013年に導入したのがアルゼンチンのティグレ市。首都ブエノスアイレスから約30㎞の距離にある川沿いの街で観光地として人気があり、毎週末には平日人口の3倍の人たちが集まるという。鉄道駅やバスターミナル、街頭に新たに設置された監視カメラは約600台。全ての映像をリアルタイムで解析し、犯罪に直結しそうな行動も検知する。容疑者探しだけでなく行方不明になっている子どもの捜索などにも利用されている。