海外におけるオリンピックや大規模なスポーツ大会の危機管理体制はどのようになっていたのか。海外の取り組みから、日本が学びとれる点はないか? 2012年のロンドン五輪、来年のリオデジャネイロ五輪、そして2013年4月に連続爆弾テロ事件が起きたボストンマラソンの危機管理事例を振り返る。

編集部注:「リスク対策.com」本誌2015年7月25日号(Vol.50)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。人名・役職などは当時のままです。(2016年8月19日)

2012年のロンドン五輪では、文化・メディア・スポーツ省にオリンピックの総合調整窓口となるGOE(Government Olympic Executive:政府オリンピック実行委員会)が設置され、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会と同じ位置づけにあたるLOCOG(ロンドンオリンピック・パラリンピック組織委員会)と調整して、準備・運営にあたった。

現場での危機管理を仕切ったのは大ロンドン庁(GLA=Greater London Authority)。ロンドンの自治は、大ロンドン庁のもと、City of Londonを含む33の特別区で構成されている。 

2012年に取材した際、ロンドン特別区に出向して危機管理の業務に携わっていたというPWCのLeigh Farina氏は「各特別区では、オリンピックゲームに備え、(2012年の)2年ほど前から3カ月に1回の割合で合同訓練を実施している。最初は、各区の計画がしっかりできているかを検証することから始めたが、直近に行われた訓練では、1つの危機案件について、全員が一緒に対応できるまで成熟度があがってきた」と話していた。 

Farina氏によると、GLAにはロンドン全体の特別区の危機管理を統括する危機管理センター(command centre)が設置されているが、過去に危機管理センターが指揮を執って対応にあたったのは2005年の同時爆破テロぐらい。しかし、オリンピック期間中は、交通の不具合や、不審物の発見など、その日に起きたことを、すべて危機管理センターにレポートすることが決められているため、訓練には、特別区をはじめ、警察や消防、病院など50を超える関連機関が参加し、組織間の連携の向上を図ったという。