Q6消火戦術の基本について教えてください。 
消防活動の優先順位は、最も大切な人命救助のRescue、次に延焼防止のExposure、そして封じ込めのContainment、さらに、消火のExtinguishment、残火処理活動のOverhaulと続きます。それぞれの頭文字を取ってレーシオ(RECEO)と呼ばれているスキームです。加えて、現場指揮官が判断し必要に応じて水損防止活動のSalvage、換気戦術のVentilationを適切に取り入れ対応します 

例えば、郵便局の火災事案などでは、手紙や重要な書類があるのでSalvageが先に来て、水損防止処置を行ってから活動にあたります。Ventilationは消火に先行して壁や屋根に穴を開けて風を通し、煙やガス、炎の逃げ道をつくります。消火活動は単純に火を消すのではなく、被害を最小限に食い止めるために高度な戦術を用いるのです。

Q7公設消防など、所属の異なる消防隊が駆けつけたときの対応について教えてください。 
もちろんICS※を用いて協力します。それぞれの部隊が勝手に消火活動や救助活動、換気作業をやるわけにいきません。チームビルティングの前提となるのがICSです。また、さまざまな部隊が協力する上で誰がどんなスキルをもっているか、能力の「見える化」は必須です。連携する上で顔の見える関係が大切だとの意見もありますが、知らない人たちと活動するケースも必ず出てきます。NFPAは誰とでも協力して消火活動できるように能力の適正基準を設定し、「能力の見える化」を図っています。 

日本でも自衛消防組織と公設消防組織が共同で消火活動にあたるケースがあります。先に挙げた日本触媒の事故調査報告書でも公設消防組織と自衛消防組織のあり方について問題提起がなされています。それぞれのシステム自体の標準化と共通化を進め、合同訓練を行い効率的で効果的な連携ができるように整理するべきです。ICSについては、『Essentials of Fire Fighting』の中でも随所に盛り込まれています。

※ICS:Incident Command System
アメリカで導入されている危機対応のマネジメントシステム。多機関と連携できるように、指揮・調整のあり方、言語や組織編制のあり方、計画の作り方などについてルールを決めている。イギリスやカナダ、オーストラリアなどでも導入。近年では災害だけでなくオリンピックなどの大規模イベントの運用でも用いられることがある。

Q8どのような手順で教育をしていけばいいのでしょう? 
まず座学を徹底的に行います。これは知識を身につけ理論武装をする段階。次に、知識をスキルに結びつけるために実地訓練を行います。自衛消防組織が行う通常の訓練に加えて、目的に応じた訓練プログラムを組み立てます。図上訓練からはじめ、上達レベルに合わせてフルスケール訓練を行います。この段階でかなりグレードの高い自衛消防組織になるはずです。次のステップは、例えば危険物を取り扱う事業者なら能力適性基準としてNFPAに準拠するIndustrialFireBrigade(産業火災対応)を学ぶなど必要性に応じてレベルアップさせます。 

米国では企業の自衛防災組織が公設消防組織を上回るケースがたくさんあります。それを支えるのが米国テキサス州にあるTexas A&M Engineering Extension Service(TEEX)です。1929年から消防訓練を開始したTEEXに現在では米国内外から毎年8万人を越える自衛消防や公設消防の隊員が集まり、訓練を行っています。Brayton Fire Training Fieldだけでも約1.2平方キロメートルもあり、広大な土地にある充実した施設のおかげで非常に高度な訓練が可能です。日本でも訓練のために同様の施設整備が急務です。 

現在、経済産業省がリードしている福島イノベーション・コースト構想に向けた国際産学連携拠点の検討委員会で、火災だけでなくすべての災害に対応した高度な訓練施設として“福島ガーディアンシティ構想”を提案したところです。一刻も早い実現が求められます。

(了)