(出典:Challenges of CPR during transport/Youtube)

FD-CPR(FD=「Firefighter Down」=倒れた消防士のこと。CPR=心肺蘇生法)を本連載で紹介してから、消防戦術ワークショップで訪れた多くの消防署で、「実際にFD-CPRを訓練してみた」「今では、要救助隊員を搬送救出後、ストレッチャーに乗せるまで1分を切るまでになった」と、うれしい声を戴いていいる。

■米国で開発された、消防士による消防士のための「FD(Firefighter Down)-CPR」
http://www.risktaisaku.com/articles/-/1831

先日、消防隊員のメンタルストレスワークショップの質疑応答で気になったことがあったので、今回記事にしてみた。質問内容は、下記の3つ。

①「CPA患者*の救急搬送中、救急車内でのCPRを行うときに胸骨圧迫を行っている救急隊員の体が固定していないため、車線変更や右左折時などに揺れたとき、救急車の棚や壁に手をついたりして、手首を痛めたことがある」
* CPA患者: 院外心肺停止(cardiopulmonary arrest;CPA)患者

②「搬送中の救急車内で胸骨圧迫を行っていたとき、急停車した際、進行方向にバランスを崩して、ひねった感じで腰を痛めたが海外ではどのように行っているのか?」

③「海外で、搬送途上でもできるだけ効果の高いCPRを実施するために救急隊員の体を少しでも安定してサポートし、できれば、腰部を固定するハーネスは無いのか?」

確かに下記の映像を見てみると、搬送中の用手による胸骨圧迫は揺れるたびに手が離れるなどして圧迫の中断も多く、また、バランスを保とうとする救急隊員に対して負荷やストレスを与えている。



The Dangers of Manual CPR in a Moving Ambulance(出典:Youtube)



Challenges of CPR during transport(出典:Youtube)

調べてみたところ、搬送中の用手による胸骨圧迫についての悩みは、海外でもさまざまに指摘されており、その多くは、高価であるため予算次第だが、用手を必要とせずに機械によって効果的な胸骨圧迫を自動で行う「自動式胸骨圧迫装置(ACCD: Automatic chest compression device)」を採用している。

以下、自動式胸骨圧迫装置について調べた内容を解説する。

自動式胸骨圧迫装置のメリット

1、米国心臓学会では、約20年ほど前から自動式胸骨圧迫装置の医学的効果を認めてはいるものの、確実な強いエビデンスが得られていないことも伝えられている。
https://volunteer.heart.org/apps/pico/Pages/PublicComment.aspx?q=782
2、自動式胸骨圧迫装置を使うことで、胸骨圧迫の中断がなく、質の高い、救命処置を行なえる。
3、自動式胸骨圧迫装置は、ニーズに応じてバッテリ駆動方式と空気圧駆動方式の両方で使用できる。市場に流通している人気商品の1つは、毎分45リットルを消費する50-90PSI充填容量の酸素か、もしくは医療用空気を使う。バッテリ駆動の自動式胸骨圧迫装置は、メーカーや機種にもよるが、通常30〜45分の使用時間をカタログに期しており、一部の装置はペースメーカー装着患者にも対応している。
4、自動式胸骨圧迫装置の平均装着時間は約15秒と早くて簡単。
5、少人数で装着可能。現場状況にもよるが、例えば、隊員1名が用手による胸骨圧迫をしているときに、もう1名の隊員が自動式胸骨圧迫装置を患者に装着開始。タイミングを合わせて、胸骨圧迫を一時中断し、2名で自動式胸骨圧迫装置を装着する。
6、自動式胸骨圧迫装置はトイレ、浴室、脱衣所、バスタブなどの狭いエリアでも迅速に装着可能。階段降下時やヘリコプターへのホイスト時、狭い廊下などでも継続的に胸骨圧迫を施してくれる。
7、自動式胸骨圧迫装置に胸骨圧迫を任せた後は各隊員の手が空くため、必要な無線交信、酸素投与や輸液投与などを早い時点で行うことができる。
8、自動式胸骨圧迫装置を用いることで、患者搬送中の救急隊員の安全を守ることができる。
9、自動式胸骨圧迫装置作動中に救急隊員がシートベルトで体を固定した状態で、気管内挿管を行うことができる。
10、自動式胸骨圧迫装置は胸骨圧迫だけではなく患者の両手をストレッチャー上に固定することで、救急隊員や患者の2次的事故を予防する。また、ベンチレーター(自動式人工呼吸器)付きの自動式胸骨圧迫装置もある。


参考文献:■Automated chest compression devices: 10 things you need to know to save lives. Knowing how and when to use these devices could save lives Apr 28, 2017
https://www.ems1.com/ems-products/Mobile-Data/articles/233994048-Automated-chest-compression-devices-10-things-you-need-to-know-to-save-lives/

デメリットとしては、狭い救急車内では自動式胸骨圧迫装置の収納スペースがないことや、希にでは有るが、下記のような事例がある。

■自動胸骨圧迫装置による心肺蘇生後に発症した外傷性肝損傷に対して開腹止血術を施行し救命しえた例(日本消化器外科学会雑誌(50巻(2017) 4号))
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjgs/50/4/50_2016.0107/_html/-char/ja/

以下、日本で入手可能だと思われる自動胸骨圧迫装置のメーカーが作成したと思われる英語版の製品紹介映像。


Automated CPR (出典:Youtube)

LUCAS vs. Manual CPR During Patient Movement (出典:Youtube)

■Safety of mechanical chest compression devices AutoPulse and LUCAS in cardiac arrest: a randomized clinical trial for non-inferiority
https://academic.oup.com/eurheartj/article/38/40/3006/3896245

国産メーカーもある。

■自動心肺蘇生器「Clover3000」(コーケンメディカル)
http://www.kohkenmed.co.jp/seihin/syousai.php?id=219

他国の救急隊員のアイデアだが、いわゆるバンジー・ジャンプで使うハーネス付きのバンジーを室内天部に取り付け、足を固定するストラップも活用しながら、用手による胸骨圧迫も行える気がするというアイデアもあった。確かにとてもユニークだが、工夫次第で安価で実現可能なのかもしれない。実験的にやってみるべきだと思いました。

いかがでしたか?FaceBookでも海外の救急隊員と話してみることで、有益なリンク先やエビデンスとなる文献なども教えてくれたり、各国の現場の実情がよく伝わってきます。

ぜひ、みなさんも世界の救急隊員とコミュニケーションを取って、知り得たことを情報共有してみてください。

■平成29年版 救急・救助の現況(総務省消防庁)
http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/houdou/h29/12/291219_houdou_2.pdf

■わが国における入浴中心肺停止状態(CPA)発生の実態 -47 都道府県の救急搬送事例 9360 件の分析-(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター)
http://www.tmghig.jp/J_TMIG/release/pdf/press_20140326_2.pdf

(了)