岩手県では、東日本大震災で遠野市を後方支援基地として、そこから沿岸部の被災地に緊急輸送道路を啓開する「くしの歯作戦」が展開されたが、この四国版を構築したい考えだ。 

現在は、香川県をモデルに具体計画を進めている段階。香川地域継続検討協議会の会長を務める香川大学危機管理研究センター長の白木渡氏は「香川も被災しないわけではないが、それを克服した上で、遠野市の役割を果たせるような拠点機能を持たせなくてはいけない」と説明する。

DCP達成に必要な5つの機能 
協議会では、これまで既に20回近くの勉強会を積み重ね、DCPを達成させるための主要な機能として、①物流・アクセス機能、②重要拠点機能、③応援・受援機能、④復旧・復興に関するヘッドクォーター機能、⑤ライフライン機能の5つをまとめた。 

①の物流・アクセス機能については、被災直後は沿岸部を中心に被害が想定されるため、高松空港等の空路拠点を中心に物流機能を確保し、復旧状況に応じて瀬戸中央自動車道、高松港・坂出港の物流機能を確保することを柱とする。②の重要拠点機能は、拠点施設が使用不可能な場合を想定した代替拠点対策がメイン。耐災害復旧対策により重要拠点・機能を確保することも計画に取り入れている。③の応援・受援機能は、応援・受援を前提とした施設整備と体制・仕組みづくりを目的に、同業者間での災害時業務の標準化、応援・受援にかかる人員配備、用語・仕組みの統一などを行う。④の復旧・復興に関するヘッドクォーター機能は、緊急現地対策本部機能の確保に加えて、国との連絡調整の要として香川県庁を中心とした連携機能を確保していく。⑤のライフライン機能は、行政と事業者が共同で復旧の優先手順を示した事前復興計画を策定し、大手事業者が持つ技術力、マネジメント力、調達力と、地元企業が有する地域の熟知、即応力を最適化したインフラ管理による機能継続を行う。 

現状では、まだ①の「物流、・アクセス機能」について具体的な議論が始まった段階だが、協議会は何パターンかの被災想定をもとに、道路復旧や物資運搬の優先順位付けや、対応にあたる建設業者や運搬業者のグループ分けなどを試みている。 

白木氏は「これらの5つの機能を達成するためには、企業や自治体などさまざまな連携がないとできない」とする。例えば、物流を機能させる場合は、建設業者が道路を復旧することになるが、そもそも高速道路、国道、県道、市道などが入り混じる中、発注者間でどの道路から復旧するのか合意がなくては、建設業者や資材などの取り合いが生じてしまう。また、そうした考えのもと行政と建設業者との協定が結ばれていなければ、効率的に作業を進めることもできない。さらに、そのことが物流業者はじめ、救援・救助に向かう関係機関にも共有されなくてはいけない。

個別最適から全体最適へ 


「個々の組織のBCPを否定するわけではない。ただし、個々の組織がBCPを一生懸命やったとしても、それが地域全体のベストにつながるわけではない」と白木氏は指摘する。 

必要なのは個々の組織としての視点と、地域全体としての視点の最適化だ。個別最適から全体最適へ思考を切り替えることがDCP推進の上では求められる。 

そのためには「個々のBCPの上位概念として、地域継続計画を考えてもらう必要がある」と白木氏は語る。個々の企業のBCPの限界も考慮し、業界全体として地域継続に必要な機能を確保できるのかをすり合わせていく必要もある。 
災害などの緊急時には、対応に充てられる資源が限られた中で、すべての被害地域を同時・公平に復旧させることなどできない。そのため、一市民や一企業の立場からすれば、「なぜ自分のところから先に復旧してくれないんだ」という不満が出る。 

白木氏は「地域全体の視点として何を優先するのかということを、あらかじめ市民から理解を得ておくためにも、地域継続計画の議論をオープンにしていくことが重要」と説く。

地域全体としてのDCPを市民や事業者が把握していれば、災害時の行政の対応に理解が得られるだけでなく、平時から市民や事業者の視点として、自分たちの生活・事業を守るために必要なコミュニティーレベルでの地域継続の議論が始まる。こうしたさまざまなフェーズでの議論の積み重ねが、災害に強い街づくりにつながるとする。