テロ・治安リスク

新型コロナウイルスによる感染拡大を防ぐために、各国ともに渡航禁止・外出自粛などのさまざまな制限を行っています。これらの施策はどうしても保護主義的な色合いを高めていくことになり、残念ながら他国・他民族・他宗教への排他的な行動につながってしまっています。こういった状況から明らかに地政学リスクが高まっているのが現状です。

新型コロナウイルスまん延後、アメリカと中国の関係が急速に悪化していますし、中国とインドも国境付近で衝突しています。北朝鮮の示威的行動も背景には新型コロナウイルスの影響があります。テロや局地的な紛争が発生する可能性が世界のあちらこちらで高まっているのです。

また、新型コロナウイルスによる経済停滞に伴い、世界的に失業者が増大しており、政府の対応への不満や閉塞(へいそく)的な社会への不安が高まっています。こういった人々の不満や不安が大規模な暴動につながるリスクも注視する必要があります。

白人警官の暴行による黒人男性の死亡をきっかけにアメリカ全土に広がったデモが暴動に発展しましたが、新型コロナウイルスがなければ局所的な事態で収まっていた可能性が高いといわれています。

最近ではタイで大規模なデモが頻発しており、一部では暴動に発展し、企業や商店が休業に追い込まれています。多くの日本企業が進出している地域ですので今後の情勢に注意を払う必要があります。

この連載の前号「第9回 再保険の手配が必要な特殊な保険 / 地震保険、テロ・治安リスク保険」でも説明しましたが、一般的な財物保険ではテロや暴動による物的損害や休業損害は補償されません。さらには警察などによる一帯封鎖が休業損害につながるというこのリスクの特殊性も考慮しなければなりません。

日本では浸透してないテロ・治安リスク保険ですが、グローバル企業であれば地政学リスクが高まっている今、検討が必要な保険です。

以上、新型コロナウイルスにより増大する3つのリスクと対処法としての保険活用について説明しました。新型コロナウイルスという劇的な環境変化の中で、前例踏襲型の対応を続けて自社の巨額損失を招かぬよう、真剣に検討することをおすすめします。

本連載執筆担当:ウイリス・タワーズワトソン 関西支店長 兼 グローバルプラクティス ディレクター 大谷和久


今回で私の連載は終了します。これまで10回の連載をご愛読いただきました皆さまに深くお礼を申し上げるとともに、わずかながらでも連載の内容が皆さまの業務にお役立ていただければうれしい限りです。ありがとうございました。