新型コロナウイルスの影響は、企業の生産現場だけでなく、国境を越えたグローバルサプライチェーン全体に及んだ。供給の途絶だけでなく需要そのものが落ち込み、出口の見えない厳しい状況が続く。このような中で、企業はどのような戦略で事業を継続すればいいのか。6 月30 日に開催した危機管理カンファレンス基調講演で、「転禍為福」(禍転じて福と為す)BCP のあり方について、名古屋工業大学教授の渡辺研司氏が講演した。
※本文中のpointは、講演内容をもとに編集部で加筆したもの

本記事はBCPリーダーズ8月号に掲載したものです。BCPリーダーズについては下記をご覧ください。
https://​www.risktaisaku.com/feature/bcp-lreaders


新型コロナウイルスとの共存を見据えたBCPは、地震や台風、風水害の場合とは少し異なる。共存とは「付かず離れず」。普段、ちょっと気にしながら、何かが起こるとそれに対して構えて対応するような状態ともいえる。そのような状態において、サプライチェーンやグローバル戦略への影響を考えてみたい。

まず、グローバルな視点での影響を考えると、各国で新型コロナウイルス感染症が発生したタイミングやレベルは違う。それぞれの事案対応や事情もあり、世界同時多発のようで時間差もある。状況は変化し続けており、先が見えていない。

スペイン風邪から約100 年ぶりの世界的な感染症の拡大事案ということになるが、その原因となった大きな要素が、皮肉にもわれわれの近代社会が生み出した国際間の長距離かつ高速の人流・物流である。各国の対応は大統領や首相の判断、政策などの「打ち手」によって異なり、制限の緩和も国レベル、都市レベルで異なる。それに伴い第2波、第3 波が出てくるため収束時期が見えていない。

自然災害は地理的に被害が拡大するが、感染症は世界中、広範囲に同時多発し、地域間の繋がりで影響が呼応し合う。こっちが上がるとこっちが下がる、という形で継続して拡大している。

電気や水道、通信といったインフラは自然災害と違い、通常通り稼働している。しかし、その裏にはそれを支える事業者が存在し、感染リスクがあるにも関わらず業務を継続しているという事情がある。特に医療分野は、ある意味で災害対応業務と言えると思うが、医療行為者自身も感染するリスクがある中で、医療崩壊の場面が多々見られたのが特徴となった。