10年前倒しで進む変化 ただし二択ではない

こうした動きは、現在のところは、感染症対策としてとりあえずやらなければならないという位置付けのなかで顕在化しています。今後はこのなかから、短期的に終わるもの、ニューノーマル(新常態)となって中長期的に続いていくものが分かれていくでしょう。

ニューノーマルというのは、本来であれば、今後10年~20年かけて移行・定着したはずの生活様式や行動様式です。それが今回のコロナ禍により、大幅に前倒しされる。働き方改革の一部などは、まさにそうです。

逆にいえば、企業は自社が取り組んできた事業について、新たに投資をして継続するのか、それともここで止めるのか、一気に決断を迫られます。中長期的に縮小しながらソフトランディングしようと思っていた事業も、いま決断しなければならない。それは10年かかるところを1年でやってしまうような大きな変化をもたらします。

ただし、すべてが10年前倒しになるわけではありません。また「ニュー」(新)と「オールド」(旧)の二者択一でもない。おそらく、両者を融合するケースが多いのではないかと思っています。

たとえばテレワークといっても、全員がそうなるのではなく、オフィスでやる仕事と在宅でやる仕事に分かれる。「通信」と「対面」のコミュニケーションは、歴史的にみると代替ではなく補完の関係にあります。テクノロジーを活用した通信が増えると、対面でのコミュニケーションも増える。電話の普及がそれです。

オールドに戻ってしまう行動様式、全面的にニューに移る行動様式、ニューとオールドの両方を使い分ける行動様式、その3パターンが考えられると思います。

一極集中是正 分散化で新たな課題

満員が日常だった電車からも人が消えた(写真:アフロ)

これから起こるであろう変化の良い面をいえば、話をする相手のバラエティーが増えることがあげられます。いままで話をしたことがなかった人とオンラインでつながる機会が増え、実際に一度会ってみようというケースが多くなるでしょう。

めったに会うことのなかった人との接触がぽつぽつ増えていき、ネットワークが分散していくのがニューノーマルの姿です。そうなると、人脈は東京集中ではなくなる。自分の住みたい場所の周りにビジネスを持ってくるようになれば、魅力的な地方はより価値が高まると思います。

一方、変化には厳しい面もあります。今回のコロナ禍により、これまでデジタルに縁がなかった人たちも、その便利さに気が付きました。それは社会のニーズを変え、市場の構造を変えていきます。

たとえばeコマースが一気に広がると、eコマースを手掛けていない小売業は、元の水準まで需要が戻りません。厳しい経営を余儀なくされ、閉店を強いられることもあり得ます。

対面での感染防止を徹底する居酒屋。ITでは変えられないものも(写真:アフロ)

どこまで需要が戻るかは、前述したように、その企業が提供している商品やサービスが働く人と顧客の双方にとってメリットがあるか否かにかかっています。その意味でeコマースは、ニューノーマルとして普及・定着していく可能性が高い。そうした市場でオールドスタイルだけで事業をしようとしたら、需要の何割かが失われることを覚悟しなければなりません。