2020/05/20
ワールド ファイアーファイターズ:世界の消防新事情
ブタンガスの危険性
爆発が起きた建物は、SmokeToke(https://www.smoketokes.com/)という、ブタンガスを使った麻薬のような嗜好品(吸引すると、脳を麻痺させ、眠気、めまいを生じさせる)を販売している会社の倉庫。今回は、特に麻酔作用があるブタンガスを使って大麻草の成分を抽出した大量の大麻ワックス(ハッシュオイル、ブタンハニーオイルなど呼び方はさまざま)に引火したという情報もあり、消防が爆発の詳しい原因を調べている。
この大量に燃焼したと思われるブタンハニーオイルは、大麻から高誘導性の化学物質THCを抽出して作られる非常に強力な濃縮物。このオイルを蜂蜜状にして専用カートリッジに入れ、フルーツなどの香りを付け、パイプのような喫煙具、気化器や気化ガス発生器などの器具を使って吸引する。
なお、この会社は国際的にビジネスを展開していることから、世界中の卸先などに対し、倉庫で商品の引火による爆燃火災の恐れがあることや、現地消防局への取り扱い報告を促している。が、ブタンガス、プロパンガスやアセチレンガス等の可燃性の気体は引火して火災を引き起こす危険性はあるが、ほとんどの国ではこれらのガスが消防法上の危険物には該当しないということで、大きな課題となっている。
もう一つの課題は、現場建物前で現場活動中の空気呼吸器を着装していても面体を付けずに放水活動をしていた隊員が、大量のブタンガスと大麻の気化ガスを吸引してしまい、活動への支障や二次的な健康被害を被ったこと。
特にブタンガスを吸引することによる健康影響は、中枢神経系(CNS)へのダメージ、心臓発作や低酸素脳症と重篤。特に妊婦が吸引することにより、妊娠27週または30週に高濃度で単回曝露された場合、胎児に重大な脳損傷と臓器の発育不全が起こることも明らかになっている(引用:急性曝露ガイドライン濃度 (AEGL) Butane (106-97-8) ブタン)。
急性曝露ガイドライン濃度 (AEGL)
Butane (106-97-8) ブタン
http://www.nihs.go.jp/hse/chem-info/aegl/agj/ag_butane.pdf
医薬品とブタンガス:埼玉県保健医療部 薬務課 薬物対策・献血担当
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0707/dame-zettai/pharmaceutical-drug-and-butane.html
ガスパン遊びに乱用されるブタンガス等の毒性等に関する調査研究
https://research-er.jp/projects/view/123909
下記のリンクでは、ブタンハニーオイルによる爆発火災における負傷者やその被害の怖さを学ぶことができる。
https://www.youtube.com/results?search_query=The+Shocking+Danger+of+Making+Butane+Honey+Oil+
下記の映像では、オレンジ色の激しい炎が黒煙とともに立ち上る様子が映っているが、炎の大きさや噴出するボリュームと爆燃スピードから考えて、大量の商品に引火した燃焼ガスが爆発限界に達し、一気に爆発燃焼を起こしたことが分かる。
(出典:ONSCENE TV)
日本でも昭和の時代から、ライター用やカセットコンロ用のガス、スプレー缶のガスを吸引する遊びは、安価で手軽に手に入るため、主に中高生の間で行われてきた。
鳥取県医師会ホームページの「健康なんでも相談室」のなかで下記の内容を紹介しているが、もし日本で今後、若者向けにブタンガスにフルーツの香りを付けて、かわいくパッケージした、現実逃避を目的とするような商品が販売された場合、簡単に規制できるだろうか?
カセットコンロ用のブタンガスは、近くのスーパーやホームセンター、通信販売でも簡単に購入できる。乱用者によっては住居に数百本の空き缶が転がっており、このような現場に出動した際は、火災の急激な拡大の危険も予測できる。
(引用:鳥取県医師会ホームページ)http://www.tottori.med.or.jp/nandemo/仕事がなく、ライターのガスを吸引している息子
現在は第三次覚せい剤乱用期で、中学生や高校生の間でも薬物乱用が急増しており、社会的影響は深刻です。この鳥取でも、薬物乱用あるいは依存者が精神科医療機関を受診し、相談・治療することも増えてきました。法律で規制されている薬物は多々あり、酒・タバコ、咳止め薬、鎮痛剤、精神安定剤、ガスボンベのブタンガス等もその依存性が警告されています。量が増えると脳、呼吸器、肝臓などに中毒症状が出ます。
多くは自分を肯定できない居場所のない若者が、仲間に誘われ気分を楽にする目的で、薬物に走ります(図参照)。次第に使用量や回数が増え、自分で中断することも加減することもできなくなり、生活が破綻し社会的信用や健康を損なっていきます。回復を信じ病気として理解し、勇気を出して保健所や県福祉保健部、回復者施設等に相談することです。
警察からも注意を促すブタンガス中毒やガスパン遊びに危険性を伝えるサイトが多く存在する。
(引用:愛知県警)
https://www.pref.aichi.jp/police/anzen/shounenhikou/yakubutsu/3shou.html
ガスパン遊びの危険性
・麻酔作用
吸入すると脳が麻痺して酩酊状態になります。
幻覚、幻聴、妄想、時には激しい興奮状態を生じます。
・酸素欠乏
ガスを吸入することにより、急激な酸素欠乏を起こします。
酸素欠乏により呼吸停止、死亡する可能性もあります。
・引火・爆発
ガスパン遊びに使用されるガスは引火性が高いので、密室で喫煙のための火などが引火し爆発する事故が起きます。
など。
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