2020/05/27
グローバルスタンダードな企業保険活用入門
4. 保険金送金の可否
国外の保険会社との保険契約を認めるものの、海外からの保険金の送金を禁じている国があります。国外の保険会社は保険金を支払えても、その国の子会社は保険金を受け取ることができないという事態が発生します。
例えばインドでは海外からの付保が可能ですが、海外からの保険金の送金ができません。日本企業が日本の保険会社と締結する企業保険の中で、インド子会社も保険対象にすることが可能ですが、その工場が消失して火災保険金が支払われる場合、日本の保険会社がインド子会社に保険金を送金することができません。
金融行政上の規制、為替に関するルール、その他、規制の根拠や目的はさまざま考えられますが、背景には自国産業保護の目的が含まれるように思われます。自国産業保護の要請が強いほど、ペナルティーも重くなるでしょう。
日本本社が保険金を受け取り、時間をおいて保険金との関連性がない形で、インド子会社へ送金するなどの方法で、規制にかからないようにする方法も検討されると推測されます。しかし、それが脱法と評価され、重いペナルティーが課される危険も当然考慮しなければならず、安全性が保障されることは期待できません。
さらに、日本本社が日本で受け取る保険金は、特別利益などとして処理されることになります。想定外の収入となり、それはそれで結構なことですが、そのようなことのために保険料を支払い続けることは、財務上、合理性に疑問があります。また、税務上の処理も確認が必要です。
他方、インドの工場の再建には、結局インド国内で資金繰りしなければなりません。しかも、事業が停止している状況での資金繰りのため、金融機関としても簡単に融資を実行するとは思えません。万が一のための保険であるため、危険を冒して無理な送金を行わなくても済むように、送金規制まで含めて各国の規制を確認しておく必要があります。
付保規制や送金規制により、マスター証券でカバーできない国について、子会社で発生する損害を「親会社に生じる経済的損失」とみなし、親会社を補償する手法として、FInC (Financial Interest Cover)という特約があります。
例えば、マスターポリシー10億円、ローカルポリシー3億円の保険契約をしている日本企業のインド子会社で5億円の損害が発生したとします。この場合、インド子会社にローカルポリシーから3億円が支払われ、日本本社にマスターポリシーから2億円が支払われます。これはインド子会社の損失2億円(5億円の損害-3億円の保険金)が、日本本社の連結財務諸表上の損失とみなし、その損失をFInCで補償するということです。
実際にこのサービスを提供している保険会社が、いくつかの国で合法性を確認済みですが、国によっては付保規制の脱法行為に該当するとされる可能性は残されています。また、前述した通り、インドの事業再建のために使う資金を、日本で受け取ることの不都合が残されます。
この意味で、FInCは最後の手段となるのです。
GIPにおける保険関連規制合致の重要性
これまでに説明してきたように、GIPを組成するには各国の保険関連規制を理解し、企業のニーズに合わせた保険プログラムを効果的に作り上げることが必要です。
保険関連規制に合致していないGIPでは、いざという時に機能しないリスクを抱えることになり、保険の本来の目的を果たせなくなってしまいます。そのためにもウイリス・タワーズワトソンのような世界的なネットワークと豊富な経験を有するグローバルブローカーを活用することをお勧めします。
本連載執筆担当:ウイリス・タワーズワトソン 関西支店長 兼 グローバルプラクティス ディレクター 大谷和久
グローバルスタンダードな企業保険活用入門の他の記事
おすすめ記事
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/01
-
-
-
-
-
全社員が「リスクオーナー」リーダーに実践教育
エイブルホールディングス(東京都港区、平田竜史代表取締役社長)は、組織的なリスクマネジメント文化を育むために、土台となる組織風土の構築を進める。全役職員をリスクオーナーに位置づけてリスクマネジメントの自覚を高め、多彩な研修で役職に合致したレベルアップを目指す。
2025/03/18
-
ソリューションを提示しても経営には響かない
企業を取り巻くデジタルリスクはますます多様化。サイバー攻撃や内部からの情報漏えいのような従来型リスクが進展の様相を見せる一方で、生成 AI のような最新テクノロジーの登場や、国際政治の再編による世界的なパワーバランスの変動への対応が求められている。2025 年のデジタルリスク管理における重要ポイントはどこか。ガートナージャパンでセキュリティーとプライバシー領域の調査、分析を担当する礒田優一氏に聞いた。
2025/03/17
-
-
-
なぜ下請法の勧告が急増しているのか?公取委が注視する金型の無料保管と下請代金の減額
2024年度は下請法の勧告件数が17件と、直近10年で最多を昨年に続き更新している。急増しているのが金型の保管に関する勧告だ。大手ポンプメーカーの荏原製作所、自動車メーカーのトヨタや日産の子会社などへの勧告が相次いだ。また、家電量販店のビックカメラは支払代金の不当な減額で、出版ではKADOKAWAが買いたたきで勧告を受けた。なぜ、下請法による勧告が増えているのか。独占禁止法と下請法に詳しい日比谷総合法律事務所の多田敏明弁護士に聞いた。
2025/03/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方