2020/04/17
危機管理の神髄
彼らの責任を持つのは赤十字だ
ある晩遅く、ブロンクスのハイブリッジ近くの凍り付いた歩道で、赤十字のベテラン・ボランティアが災害対応の仕事がどのようなものかを語ってくれたことがある。くすぶっているアパートの建物を背景にして、仰々しい身振りで話を終えた。「誰もが災害とは常に崩壊した建物、ヘリコプターや消防車だと思う。私はそれに対して、そのうちのどの一つのことでもないと言うことにしている。それは人なのだよ」と。
それぞれの組織が、災害対応のそれぞれの部分の責任を負っている。消防は生命の安全、緊急医療サービスと病院の救急部門はヘルスケア、警察は治安、緊急事態マネジメントは重要なインフラ、FEMAは資金供与プログラムの責任を持つ。
赤十字は人々の責任を持つ。私は、必要とするときに必要なものを与えるために人々に集中する献身的な専門家、ボランティア、スタッフのグループと仕事をすることができて幸運だった。長い間、真に重要な使命において、われわれ以上に人道的な組織は国中のどこにもないと思っていた。
それは慈済基金会に出会うまでのことである。
アンチFEMA
―慈済基金会ボランティア 2007年 メキシコ ティアフアク メキシコ中央地震
ワールドワイドツアー災害の後、われわれは被害者の家族を助けたいと思ったが、彼らが何を必要としているのか本当に分からなかった。
慈済基金会(Tzu Chi)は知っていた。中国語で“tzu”は憐憫を、“chi”は救済を意味する。ニューヨーク市、中でも結び付きの強い中国人社会は2011年3月の悲劇によって深刻な影響を受けた。われわれは家族に同情(sympathy)した。同時に慈済基金会は彼らに憐憫(compassion)を示した。われわれはしばしばこれらの概念を一緒くたにするが、同じものではない。
同情(sympathy)はギリシャ語の”sympatheias“あるいは“ともに感じる”という言葉から来たものである。同情とは損失や不幸に対して気の毒に思うことである。憐憫(compassion)はラテン語の“compassio”あるいは“ともに苦しむ“という言葉に由来するものである。
パラレルな宇宙では一人ひとりが、その人となりによって、そしてどのような災害かによって、みんな異なるニーズを持っている。慈済基金会はチャイナタウンの家族が何を必要としているかを知っていた。なぜならば憐憫による救済とは生存者に寄り添ってともに苦しむためにパラレルな宇宙へ旅をすることだからである。
慈済基金会は被災者に好まれていると言った。OEMでは、それは書類手続きがなく500ドルのキャッシュカードを手渡すからだと思った。それはそうなのだが、それが全てではない。
有力な情報元を持った調査ジャーナリストが速報への反応を探るために米国慈済基金会の本部へ電話をしてくるというシナリオを想像してみよう。
電話に出た慈済基金会の担当者は質問に混乱させられて、こんなふうに答えるだろう。「カードをブックマークとして使えとでも言うのですか? あるいはケーキを切るのに使えと?」
慈済基金会は、判断はしない。求められもしないアドバイスもしない。何をしているべきかをも言わない。奉仕の機会を与えてくれたことに感謝する。現金を何の条件も付けずに与える。そしてもっと他のもの、お金よりもずっと価値のあるものを与える。
慈済基金会は尊敬を与える。
(続く)
翻訳:杉野文俊
この連載について http://www.risktaisaku.com/articles/-/15300
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