東南・南アジアの重要な宗教
米国ワシントンに本部を置く非政府組織であるPew Research Center(PRC)によれば、2010年の全世界のイスラム教徒の人口は約16億人で、当時の全世界人口の23.2%を占め、世界最大のキリスト教徒(約21億7000万人、31.4%)に次いで、世界で2番目の宗教勢力となっています。イスラム教徒の出生率の高さ、近年の医療技術の発展等により、多くの研究者が、今世紀末(2100年)にはイスラム教徒が宗教別で世界最大勢力になると予測していました。
このような中、2月28日、PRCが新たな報告書を発表しました。それによれば、2010~50年にかけて、イスラム教徒人口は73%増大し、2050年に約27億6000万人に達すると予測しています。同時期のキリスト教徒人口もカトリックを中心に37%増大し、2050年には約29億2000万人に達すると予測していますが、増加率がイスラム教徒の方が格段に高いため、2070年には世界のイスラム教徒人口がキリスト教徒人口を上回ると予測しています。更に、欧州におけるイスラム教徒比率も10%に達する(2010年現在EU28カ国全体で約4%)と予測しています。
現在、日本企業の海外進出が加速し、東南アジアから南アジア地域への進出も非常に増えています。世界最大のイスラム教徒人口を擁するインドネシア、イスラム教徒が国教となっているマレーシア、1億人以上のイスラム教徒を擁するインド、バングラデシュ等にも進出が加速している状況です。
そういった国・地域での企業活動においては、労務管理、コンプライアンス等において、イスラム教を意識したリスクマネジメントが必要です。一方で、世界的に過激なイスラム原理主義組織、またはそれに感化されたような人(Home Grown Terrorist/Lone Wolf Terrorist)によるテロ事件が多発しているため、「イスラム教=過激」、「イスラム原理主義=テロリスト」という間違ったイメージが広がる兆候があります。そのため、イスラム教について、正しい認識を持つことは、今後の日本企業の海外進出において、必要不可欠と考えられます。
宗教としてのイスラム教の特徴
イスラム教はムハンマド・イブン・アブドゥッラーフ・イブン・アブドゥルムッタリブ(Muhammad ibn `abdullah ibn `abd al-MuTTalib:570頃~632)によって、610年頃にアラビア半島の商業都市メッカ(現サウジアラビア)で創設された宗教で、ユダヤ教およびキリスト教の影響を色濃く受けています。ちなみに、旧約聖書に記されている預言者エイブラハム(Abraham)は、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教を信じる「啓典の民」の始祖とされており、この3つの宗教は同じ根源に発しているとされています。
イスラム教はユダヤ教、キリスト教と共に一神教であるため、偶像崇拝も禁止していますが、ユダヤ教、キリスト教と比べても、厳格に禁止している点が特徴のひとつとなっています。なお、ムハンマドについては、イスラム教ではモーセ(Moses)、イエス・キリスト(Jesus Christ)に続く最後にして最高の預言者とされています。
このイスラム教の宗教としての最大の特徴は、厳格な「終末意識」を中心に信者に「現世」だけでなく「来世」を常に意識させていることです。この終末意識はユダヤ教、キリスト教と共通する点も多く、近い将来に世界が終焉し、神の裁きによって信仰者と不信仰者が選り分けられ、天国と地獄にそれぞれ分かれていくという観念に基づいています。また、イスラム教においては、政治に関して一定の倫理規範を有している点も特徴で、この倫理規範も終末意識の強さと密接に結びついています。例えば、最後の審判において報償を授かり、天国で永遠の至福を味わうためには、政治秩序に関しても一定の倫理規範を保持しなければならないとされています。
神の前の平等という考え方も、他の宗教に比べて、厳格に重んじられています。例えば、イスラム教で宗教儀礼・施設の管理、イスラム教教育、イスラム法解釈を司るイスラム教徒はウラマー(Ulama)と呼ばれ、一部では「聖職者」と呼ばれることもありますが、神の前の平等が最も確立しているイスラム教では、イスラム教徒に上下はないことから、原則聖職者は存在せず、一般的にウラマーは「イスラム法学者」と呼ばれることが多くあります。イスラム教の宗派としては、大きく分けてスンニー派(Sunni)とシーア派(Shia)の2つの宗派があり、その割合はスンニー派が87~90%、シーア派が10~13%とされています。
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