写真は糸魚川火災で焼け残った北越銀行

米国では、米国厚生省、疾病予防管理センター(CDC)の下部組織で国立労働安全衛生研究所(National Institute of Occupational Safety and Health:NIOSH/ナイオッシュと発音)という労働災害の予防を目的とした研究・勧告を行う米国連邦政府の研究機関があり、ここには過去発生したあらゆる事故・災害事例の調査研究結果が蓄積されており、様々な勧告や推奨が出されている。

その中では、火災現場で殉職した消防士の事故調査を教訓に「火の動態と特性」を理解することがいかに重要であるかを力説している。これは常備消防だけに限らず、消防団をはじめ、市民レベルでの消火隊にも広く教育・啓蒙されなければならない重要な事項である。

この章では、そのような観点から火の動態と特性について解説しながら火災防護全般について言及していく。読者の皆さんも自宅や会社、または近隣にある火災危険を意識して探してみると様々な気づきがあるだろう。万が一、火災に遭遇した時に、CFRまたはCERTメンバーとしてチームでどのように火災を評価し、鎮圧していけばよいかの助けにしていただければ幸いである。

前提として、初期消火がいかに大切であるか、そのためには正しい消火器の取り扱い方法を知り、鎮火後の後処理などについても言及していく。また前回の連載でも強調させていただいたようにチームの安全第一の観点から、消火活動にあたるときも、必ずバディー(2人一組)で活動し、PPE(個人用保護具)を装着することを強く推奨する。

【火の科学】

 

はじめに、我々は「燃焼」という言葉の科学的理解を持たなければならない。物理化学的に言うと燃焼とはエネルギーおよび燃焼成生物を伴う急激な酸化反応であると定義できる。例えば同じ酸化反応でもゆっくりとした酸化反応には金属の錆などがあるが、急激な酸化反応にはBLEVE(沸騰液体蒸気拡散爆発)と呼ばれるような急激な火炎を伴う大爆発がある。

このように同じ酸化反応でもそれぞれの物質が持つ潜在的エネルギーと運動エネルギーの性質により危険度は変わってくる。消火活動に従事する者は基本的な火の科学と燃焼の特性を理解しなければ、火災を正しく評価し、正しい戦術を選択できるようにはならない。つまり、あなたのチームの安全を火災から守るためには必須の知識ということである。

次に物質が燃えるきっかけについて説明する。パイロット着火と自然発火だ。パイロット着火とは、文字通りマッチの火を紙に近づけて着火させるように、外部からの熱エネルギーによって物質が分解され、気化された気体燃料が燃焼している状態のことだ。もう一方の自然発火とは、火源となる外部からの熱エネルギーを供給せずとも、物質自身の温度が自然に発火する温度まで達し燃焼する状態のことである。