ロックフェラー財団100RCに見る街づくりのポイント
PDCAサイクルに基づいたボストンのレジリエント戦略作成プロセス
第10回:ボストン(アメリカ)
国際大学GLOCOM/
主任研究員・准教授、レジリエントシティ研究ラボ代表
櫻井 美穂子
櫻井 美穂子
ノルウェーにあるUniversity of AgderのDepartment of Information Systems准教授を経て2018年より現職。博士(政策・メディア)。ノルウェーにてヨーロッパ7か国が参加するEU Horizon2020「Smart Mature Resilience」に参画。専門分野は経営情報システム学。特に基礎自治体および地域コミュニティにおけるICT利活用について、レジリエンスをキーワードとして、情報システム学の観点から研究を行っている。Hawaii International Conference on System Sciences (2016)およびITU Kaleidoscope academic conference (2013)にて最優秀論文賞受賞。
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前回に引き続き、アメリカの都市を取り上げます。東海岸の学園都市、ボストンです。ボストンは、1630年に街の基礎が造られたといわれ、アメリカで最も歴史のある都市の一つです。個々人のパーソナルな人間関係から、住宅政策、教育機会に至るまで、人種差別とその結果としての社会的統合に悩まされてきた歴史でもあります。Racismに端を発する社会課題は現在も解決しておらず、ボストンのレジリエント戦略の中心的な課題認識となっています。
ボストンがレジリエンス戦略を策定した動機の一つとして、「地域が抱える最も重要な課題を特定できること」「課題間の関係性を理解することにより、共通の解決策を導き出せること」を挙げています。例えば、ヘルスケアに関する住民の課題にアプローチすることは、犯罪率の低下や緊急時のより良い備えにつながると考えています。一つの政策が多元的に住民にメリットをもたらす方策の一つとして、レジリエンス戦略を捉えています。
ボストンの面積は232平方キロメートル、およそ68万人が暮らしています。レジリエンス戦略策定に当たり議論に参加した市民は1万1,700人で、167回のコミュニティミーティング、18回のワークショップ、47回を超えるイベントや研究機関との協働セッションを実施してきました。ロックフェラー財団が作成したCity Resilience Framework(https://www.100resilientcities.org/resources/)に基づき、まず検討を優先すべき課題を特定しました。続いてボストンが目指すレジリエンス社会、さらには人種平等社会における願望と、実行可能なアクションを整理しました。アクションの評価に必要なチェックシートも作成し、最後にCity Resilience Frameworkに戻る、という循環サイクルにより、レジリエント戦略が作られました。
ボストンが抱えるチャレンジ
①経済格差
市民の5人に1人が貧困層です。白人家庭は一般的に25万ドル程度の資産を保有する一方で、アフリカ系アメリカ人の家庭が持つ資産は8ドルに過ぎない、との統計結果もあります。資産の主なものには住宅があり、近年アフリカ系アメリカ人の住宅保有率が上がっている傾向があるものの、彼らが市場に入ることは極めて難しい(住宅の購入を断られてしまうなど)、との報告があります。
②気候変動、環境変化
湾岸に面したボストンでは、洪水や海面上昇のリスクが高いです。OECDの調査によれば、ボストンは洪水により受ける経済損失が、世界で8番目に高いと予測されています。
③テロ
2013年のボストンマラソンを襲ったテロは皆さんも記憶にあると思います。当時、現場周辺にいた人々の避難にかかった時間は22分でした。既に十分な対応がなされていたと思いますが、ボストンではこのテロを契機として、対策を進化させてきました。FEMAからの1800万ドルの資金援助を受け、警察警備・消防の設備の充実と、コミュニケーションツールを改善しました。
④コミュニティトラウマ
ボストンマラソンのテロにうまく対処したことで、“ワンボストン”のスローガンが世界に浸透しましたが、市内には犯罪率の高い地域があり、人種差別がなくなったわけではありません。人々が抱えるトラウマを、地域コミュニティーが共有し、共に歩んでいくことが求められています。
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