シドニー(イメージ)

さまざまな脅威にさらされてきたシドニー

 今回は、前回に引き続きオーストラリアの都市、シドニーを取り上げます。前回のメルボルンと同じく、人口500万人が住む大都市です。面積は1万2000平方キロメートル、オーストラリアのGDPの約4割を生み出す経済の中心地でもあります。人口の4割がオーストラリア外で生まれた住民で、住民は200を超える文化的背景を持っています。シドニーの西南部には若者が多く、北東部には高齢者が多く住んでいます。

 シドニーがレジリエント戦略の策定に着手したのは2015年。市や州政府の職員、ビジネス、アカデミア、コミュニティーサービスなどから1000人を超える人々が参画して、3年かけて戦略が作られました。

 市域は東部・中部・西部の3つに分けられています。東部はオーストラリアの東海岸に面しています。3つの地域でそれぞれ、過去に自然災害やパンデミック、サイバー攻撃、インフラ断絶、金融機関の倒産、テロなどさまざまなリスクにさらされてきました。

シドニーが抱えるショックとストレス

レジリエント戦略では、シドニーを形作るシステムを、ヘルスサービス、交通、インフラ、通信、そしてソーシャルサービスと定義しています。これらのシステムの相互依存性は年々大きくなっているため、リスクをしっかりと認識することが重要と捉えています。合わせて、シドニーだけでは解決できない課題も多いため、州政府や世界の他都市との協力で課題解決に臨もうとしています。

★シドニーが抱えるショック要因(短期的課題)
・異常気象 → 特に熱波と豪雨、それに伴う山火事と洪水
・インフラの脆弱性 → 熱波時にエアコンの需要増による電力供給の不安定化、電力不足によるネットワークの断絶
・金融危機 → 2007年のリーマンショック時は何とか持ちこたえたものの、今後同様のリスクが起きてもおかしくない
・水資源の枯渇
・デジタルネットワークの断絶
・テロ攻撃
・パンデミック
・サイバーアタック

★ストレス要因(長期的課題)
直接的なストレス要因としては挙げられていませんが、人口増加による都市化と住民属性の変化が最も影響を与える要因だと考えられています。他の多くの都市と同じように、住宅コストが上昇することによる住宅供給のひっ迫が懸念されています。若年層が多く暮らすシドニー西部では、交通手段が限定的なこと、雇用機会が少ないことが課題となっています。これらは社会の分断要因となり、上記で挙げた短期的ショックに対するコミュニティーの脆弱性を高めることにつながります。

・医療サービスへの需要
・住宅供給
・ソーシャルコーヒージョン(社会的結束、一体感)
・雇用の多様性
・不平等
・持病、慢性病
・交通手段の多様化
・ドラッグとアルコール依存
 
ストレスとショック要因には相関関係があり、例えば熱波が続いて外で運動ができなくなると慢性病を発症する市民が増え、医療サービスへの需要が高まることが予想されます。熱波それ自体にも対応する必要がある中で、どこまで医療の能力を高められるのかが課題です。現在のコロナ禍でも、熱中症とのダブルの対応が求められているのと同じ状況と言えます。

シドニーでは、土地活用と交通サービスの充実についての計画を進めていますが、ストレス要因から生まれるリスクを軽減させるためには、これまでよりもよりホリスティック(全体的)なアプローチが求められる、としています。具体的には、先に述べた各ショック/ストレス要因間の相互依存性の深い理解に基づいたホリスティックなアプローチが必要となっています。