このほか、ボストンの抱えるチャレンジとして、下記の点が挙げられました。

⑤健康機会の不平等
⑥教育機会の不平等
⑦老朽化する交通施設
⑧構造的な人種差別

⑧の構造的な人種差別は、全てのチャレンジの根底にある課題として捉えています。政策、各種プログラム、日々の生活、組織文化、そして人々の差別バイアスなどが複合的に影響しあって人種差別の問題を構成しています。この根源的な問題に対応するため、ボストンのレジリエント戦略の中心にはPeople(市民)が据えられました。

ボストンのレジリエント戦略4つのビジョン

ボストンのレジリエント戦略は、2030年に向けて、次の4つのビジョンを掲げました。その中心にあるのはPeople(市民)で、戦略全体としてコミュニティレジリエンスの向上を目指しています。

1)過去の教訓から学び、人々をエンパワーする都市
ボストンのチャレンジにも掲げられた、人種差別の過去の歴史をまずは認識することを第一の目的として、産官学、そして地域コミュニティーが共に人種差別を乗り越える文化を醸成する、としています。人種差別に対するコミュニティーとしての共通の理解を構築し、結果としてのソーシャルインクルージョンの向上を目指すのです。差別経験のある人のトラウマケアやメンタルヘルス向上の取り組みにも力を入れています。

2)協力的で能動的なガバナンスの構築
市の政策決定やコミュニティー作りのプロセスが人々に開かれ、多様なステークホルダーとの協働にオープンであることを常に明示し続けることを目指しています。行政内部の部門間連携にも積極的に取り組みます。

ボストンのレジリエント戦略の中心は市民であり、“コミュニティー”です。市役所の職員にも、ボストン全体が持つダイバーシティを反映させるような採用方針をとっています。市にとって最も身近なコミュニティーから、多様性を持たせオープンな文化を醸成していく考えです。

3)経済的自立の平等性担保
人種や民族的出自により、経済的自立への道が閉ざされないように、経済活動と社会活動へのアクセス機会を平等にすることを目指しています。具体的には、経済的な自立が可能な職業機会の提供、起業環境の整備、個人の資産構築・管理のサポートなどを行います。個人の資産とは、冒頭で述べた住宅を念頭においています。コンピュータやインターネットなどのデジタルツールに対するリテラシーの向上もサポートします。

ボストニアンと呼ばれる、ボストン市民の経済的自立に加えて、全ての子どもたちが教育の機会を受けることを重視しています。

4)つながりを持ち、柔軟な都市
住民コミュニティー間のつながりを強化します。住民同士のつながりが、市が提供するインフラや社会システム上に有機的に展開することで、気候変動などの長期的な課題にも柔軟に対応できる土壌になると考えています。ここでいうインフラとは、鉄道やバスなどの公共交通機関網を指しています。

住民同士、都市同士がつながりを持つことがカギ

ボストンにはMITやハーバード大学など世界トップの大学をはじめとする多数の研究機関があり、学際都市として認識されている方も多いと思います。華やかな印象の強いボストンのレジリエント戦略は、人種差別をいかに克服するか、この一点で構成されているといっても過言ではありません。「構造的な人種差別」という文言を使い、地域が抱えるさまざまな課題の根源として人種差別を捉えています。

レジリエント戦略の策定プロセスでは、PDCAサイクルにのっとり、多くの市民を巻き込むことに成功しました。また、4つのビジョンにひもづく具体的なアクションは、100RCに選ばれた他都市のレジリエント戦略からインスピレーションを得ているものが多くあります。

都市間ネットワークの良さは、課題を共有し、お互いの取り組みから学べる点です。日本国内においても同様のネットワークが育っていってほしいと思います。加えて、社会課題を構造的に捉えるボストンの試みも、参考になるでしょう。

©OpenStreetMap contributors