第83回:地政学的リスクの現状と企業における対策状況
PANTA RAY / Geopolitical Risk Report 2019
合同会社 Office SRC/
代表
田代 邦幸
田代 邦幸
自動車メーカー、半導体製造装置メーカー勤務を経て、2005年より複数のコンサルティングファームにて、事業継続マネジメント(BCM)や災害対策などに関するコンサルティングに従事した後、独立して2020年に合同会社Office SRCを設立。引き続き同分野のコンサルティングに従事する傍ら、The Business Continuity Institute(BCI)日本支部事務局としての活動などを通して、BCMの普及啓発にも積極的に取り組んでいる。一般社団法人レジリエンス協会 組織レジリエンス研究会座長。BCI Approved Instructor。JQA 認定 ISO/IEC27001 審査員。著書『困難な時代でも企業を存続させる!! 「事業継続マネジメント」実践ガイド』(セルバ出版)
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各国の政治や経済、治安の状況の総称
これまで本連載でご紹介してきた調査報告書の中には、様々な種類のリスクの高さを各国・地域ごとに比較して示したものがいくつかあった。例えば第71回でご紹介した『FM Global Resilience Index』(注1)では、自然災害リスクやサイバーセキュリティ、汚職対策の状況、社会インフラの整備状況などを含む12の観点からリスクを評価した結果を各国ごとに表示するようになっているが、これらの様々なリスクのうち、各国の政治や経済、治安の状況などに関連するリスクを総称して「地政学的リスク」(geopolitical risk)という。
今回紹介する報告書『Geopolitical Risk Report 2019』は、イタリアで組織レジリエンスに関するコンサルティングや研修サービスなどを提供しているPANTA RAY社が実施したアンケート調査の結果をもとに、企業が地政学的リスクからどのような影響を受けているか、これらに対してどのような対策を講じているかをまとめたものである。
図1を見ていただければ、「地政学的リスク」にどのようなものが含まれるかお分かりいただけるかと思う(注2)。これは直近の12カ月間に事業活動の途絶や混乱(disruption)を引き起こした事象と、その際の途絶や混乱の程度を尋ねた結果をまとめたものである。
半数の企業が「政治的な動機によるサイバー攻撃」(Politically motivated cyber attacks)によって「重大な影響」(Significant disruption)を受けたと回答している。本連載で紹介させていただいた他の報告書でも、サイバー攻撃による影響が近年特に増えていることが注目されているから、この点については大きな驚きはないであろう(注3)。これに「経済の低迷」(Financial downturn)(注4)、「テロ活動」(Act of terrorism)などが続いている。
なお本報告書では、これらのリスクを発生頻度でまとめた結果も示されている。図の掲載は省略するが、発生頻度順では「経済の低迷」がトップとなっており、これに僅差で「為替レートの乱高下」(Exchange rate volatility)が続いている。また財務的損失が10万ユーロ(約1210万円)を超えたものは何か? という問いに対しては、「為替レートの乱高下」という回答が最も多く、次いで「経済の低迷」となっている。
これらの結果を概観すると、多くの企業が最も影響を受けているのは各国における経済状況や為替レートであり、テロ活動は発生頻度こそ低いものの発生した際の影響が大きく、サイバー攻撃による影響は今のところ比較的小さい、ということになるかと思う。筆者の個人的な印象としては、「地政学的リスク」というと「国家間の武力紛争」(Inter-state armed conflict)や「政治的リーダーの交代」(Change of political leadership)、「政治的活動に関連するインシデント」(Activism-related incident)などが連想されるが、これらは発生頻度、影響の大きさとも比較的小さいようである。
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