2016/12/13
リオ五輪から学ぶ 日本の危機管理を高めるヒント
具体的な手法についてレゼンデ氏は「シナリオをカードで参加者に付与する方法で行った。ロンドンや東京から、大会運営の知識やスキルがあるセキュリティ専門家をテクニカル・リハーサル・オフィサー(TRO)として招き、彼らにもシナリオを考えてもらい、参加者に付与しながらプロセスや手順を検証した」と語る。
競技会場ごとに分かれ、洪水や、停電、ネットワークの切断、競技場の変更やスケジュールの変更、セキュリティアタック、電話や無線の途絶など、合計1000近い異なるシナリオが付与されたという。
このほか、1つ1つの新しいシステムについては、ペネトレーションテスト(侵入テスト)と呼ばれる方法により、通信ネットワークなどを通じてシステム内部に侵入されないか安全性がチェックされた。こうした訓練によりあぶり出された脆弱性1つ1つについて繰り返し改善を積み重ねてきた。
TOCが144会場をすべて監視
大会本番に向け2015年11月には、大会運営に関わるあらゆるテクノロジーについて指揮調整を行うTOC(TechnologyOperations Centre)が組織委員会の庁舎内に立ち上がった。
TOCは、800㎡にもおよぶ広さを持ち、オリンピック・パラリンピックに関わる計144施設すべての会場について、ITシステムの稼働状況などを監視する機能を持つ。スタッフの数は192のポジションに対して600人に上ったという。オリンピックパーク内に設けられた大会全体の運営管理を行うMOC(メイン・オペレーション・センター)とも相互に連携が取り合える体制が整備された。
「各会場でネットワークやシステムに関するトラブルが起きれば、即座にTOCに上げられ対応がとられる。一方、万が一TOCでは解決できないような重大な問題が起きた場合には、MOCに問題がエスカレートされ、国際オリンピック委員会(IOC)の判断を仰ぎながら、対応が決定される仕組みになっていた」(レゼンデ氏)。
システム面においてもTOCとMOCはそれぞれが代替機能を持っていた。「仮にTOCが使えなくなった時にはMOCが代替施設となり、MOCが使用不能になった時にはTOCが代替施設となる」(同)。さらに、TOCは、万が一の事態に備えスペインからリモートにより支援が受けられる体制も構築されていた。
ゲーム直前に見つかった脆弱性
大会直前には、PDFファイルを表示するAdobeのソフトに脆弱性が見つかった。が、大会直前で、なおかつ対策を行うとなると対象となる機器が2000以上もあり時間的に間に合わないことから、対策は行わずリスクを保有することを決断したとする。
ソウザ氏は「テクノロジーへ及ぼす影響の大きさと脆弱性の深刻さを見極め対応するか否かを決めることが大切。もし、脆弱性がとても深刻なものなら、時間のリスクを冒してでも対応することを決断しただろう」と話す。
最悪のシナリオは電力ダウン
最も懸念したシナリオの1つが、「エネルギーネットワークが何者かに攻撃され、データセンターが止まるような事態だった」とレゼンデ氏は明かす。そのため、早い段階から電力会社や交通、行政機関など外部のプロバイダーを含めたサイバーセキュリティのコアチームを設け、彼らを会議や勉強会に招いて、ハッカーなどの活動について情報を提供したり、時には対策の支援も行ったとする。
「もし我々が自分達のインフラを守ろうとしても、プロバイダーがアタックされたら大きなトラブルにつながりかねない。したがって、我々は自分達のサイバーセキュリティのクオリティを高めるとともに、他の組織に対しても、彼らと情報を共有したり、我々の手順や考えていることを示したり、あるいは専門知識を提供するなどの支援も行った」とソウザ氏は具体的な取り組みを示す。
2020年の東京五輪に向け、レゼンデ氏とソウザ氏はインフラの強化や効果的な演習に加え、多くの関係機関を早い段階から巻き込むことを提案する。
大会運営の基幹システムが直接被害を受けなくても、ライフラインや、間接的に大会と関わる企業のシステムが攻撃を受けただけでも大きな問題に発展しうる。組織委員会だけでなく、政府、自治体、民間企業それぞれが連携しながら対策を強化していくことが求められている。
(了)
リオ五輪から学ぶ 日本の危機管理を高めるヒントの他の記事
おすすめ記事
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/01
-
-
-
-
-
全社員が「リスクオーナー」リーダーに実践教育
エイブルホールディングス(東京都港区、平田竜史代表取締役社長)は、組織的なリスクマネジメント文化を育むために、土台となる組織風土の構築を進める。全役職員をリスクオーナーに位置づけてリスクマネジメントの自覚を高め、多彩な研修で役職に合致したレベルアップを目指す。
2025/03/18
-
ソリューションを提示しても経営には響かない
企業を取り巻くデジタルリスクはますます多様化。サイバー攻撃や内部からの情報漏えいのような従来型リスクが進展の様相を見せる一方で、生成 AI のような最新テクノロジーの登場や、国際政治の再編による世界的なパワーバランスの変動への対応が求められている。2025 年のデジタルリスク管理における重要ポイントはどこか。ガートナージャパンでセキュリティーとプライバシー領域の調査、分析を担当する礒田優一氏に聞いた。
2025/03/17
-
-
-
なぜ下請法の勧告が急増しているのか?公取委が注視する金型の無料保管と下請代金の減額
2024年度は下請法の勧告件数が17件と、直近10年で最多を昨年に続き更新している。急増しているのが金型の保管に関する勧告だ。大手ポンプメーカーの荏原製作所、自動車メーカーのトヨタや日産の子会社などへの勧告が相次いだ。また、家電量販店のビックカメラは支払代金の不当な減額で、出版ではKADOKAWAが買いたたきで勧告を受けた。なぜ、下請法による勧告が増えているのか。独占禁止法と下請法に詳しい日比谷総合法律事務所の多田敏明弁護士に聞いた。
2025/03/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方