江戸川区役所も荒川の氾濫や高潮で浸水のリスクがある

職場での避難受け入れやテレワークも

この台風19号では江戸川区内では軽傷者4人、半壊が1棟、一部破損41棟に被害はとどまった。これは河川上流域のダムの他、中流域では埼玉県にあり3900万立方メートルの容量を持つ荒川調整池の彩湖、中川と江戸川を結ぶ三郷放水路の他、中川など中小河川の水をゆとりのある江戸川に流し、67万立方メートルもの水をためておくこともできる「地下神殿」こと首都圏外郭放水路、下流域では区内にあるスーパー堤防といった主に国や都が造った強固なインフラが守ったことが大きい。今回は難を逃れたものの、温暖化が進む中で今後、これらインフラで対処できない災害も起こりうる。

国土交通省荒川下流河川事務所が作成した、荒川下流域立体地図。江戸川区の大部分が河川の水位より低いことが分かる

江東5区以外に都や内閣府なども交えた「首都圏における大規模水害広域避難検討会」では、今年度中に方針のとりまとめを行う予定となっている。12月に第4回の会議を開き、とりまとめには今年相次いだ台風の教訓も反映されるが、機関の役割分担などは決められても、具体的な広域避難の受け入れ先の決定には踏み込めないとみられている。本多氏も「江東5区の人口250万人全員を受け入れる公的な避難場所を見つけるのは難しい」と語る。それゆえに自助・共助が重要と指摘。「企業は何かあれば従業員と家族を避難先として受け入れてほしい」と述べた。また「柔軟な働き方も大事になってくる。避難のための休暇やテレワークを認めることも安全につながる」と協力を呼びかけた。

江戸川区では今後、ハード面では国や都が進めるスーパー堤防整備の際の街づくり、ソフト面については水害BCP作成の他、ハザードマップも用いて、水害に関する講演会や企画展示も進めていく。「町会や自治会単位の説明会も行っており、今回の台風で説明会や講演会のリクエストも来ている。『ここにいてはダメです』のハザードマップがマスコミにも取り上げられ、水害への区民の意識は確実に高まっている」と本多氏は語った。公助の限界も見えつつある中、情報提供や注意喚起といった「自助を促す公助」は今後重要性を増しそうだ。

(了)

リスク対策.com:斯波 祐介