□事例:取引先が、出稼ぎ労働者との間でトラブル

A社は日本を代表する大手製造業です。A社は海外売上の割合が6割以上あり、A社のサプライヤーは世界中多くの国に存在しています。また、委託して作っている製品も多く、国別では、中国の他、東南アジアの新興国数カ国にも委託先を持っています。

ある年、A社の部品サプライヤーであるB社の東南アジアの工場で、外国からの出稼ぎ労働者との間で、労働待遇を巡ってトラブルが発生しました。労働者が不公正な処遇の改善についてB社側に求めたところ、会社から脅しがあったと訴え、さらには労働者を支援する人権活動家も現れて、B社との間で訴訟となったのです。当時、B社工場の所在国(東南アジア某国)の法律では、出稼ぎ労働者に対する処遇は違法とは言えないもので、裁判においてはB社が勝訴する判決が下されました。

しかし、労働者を支援する人権活動家はこれに納得しませんでした。「B社の行為は、国際的なスタンダードでは差別労働とみなされる」と訴え始めると、これに呼応した世界の人権活動家やNGOがB社に対して激しい攻撃を展開することとなりました。

欧米においては、NGOやNPOなどの市民団体は、各国政府のみならず民間企業の活動を監視することが当たり前のように行われており、社会に対し非常に強い影響力を持つ組織となっています。そしてその矛先は、B社のブランドメーカーであったA社にも向けられることになりました。まず世界中にあるA社の支店に抗議メールが殺到する事態が起こりました。また、海外支店周辺にはデモ隊が出現し、「A社のサプライヤーであるB社が差別労働を行っている。この責任は当然A社にもある。A社の製品は買ってはならない」と連日騒ぎ出したのです。この騒動はそれから約半年間続いたため、A社の海外での売上は大幅にダウンすることになりました。A社にとって部品メーカーB社は数あるサプライヤーの1社にすぎませんでしたが、サプライヤーの人権問題が発注元にも及んでしまったのです。