危機管理の洗い出しの要点

このように、リスクを洗い出す時には、①地理的条件(地盤の強さ、断層の有無、近くにあるもの等)、②歴史的条件(過去に起きた事件、過去にその地で起きた災害・事故等)、③物理的条件(建物・施設の丈夫さ、備蓄の量等)、④環境の変化(朝から夜、数十年前と今、開発の過程)、⑤直観(ヒヤリハット)といった5つの視点が必要になります。

それに対して、どう対策を講じるか。

一気にすべてのリスクに対策をするのは難しいですから、まず、地震というリスクを例に考えてみましょう。

効果的な訓練

ゴルフ場の(アクセス道も含む)地図を広げて、先ほどの5つの視点から地震の危険性を書き込んでいってみましょう。①地理的に危険な場所(断層がないか)、②歴史的条件(過去にそのゴルフ場のある場所で起きた災害)、③物理的条件(液状化の有無、クラブハウスの耐震性や観客席の耐震性、備蓄の種類と量など)、④環境の変化(数十年前と今、盛り土や切土)、⑤直観(何かあれば)。わからない点は不明マークをつけておいて、後から調べてみてください。

ただし、地震は1つの原因にすぎないという点に注意が必要です。結果として起こりうることも考えてみます。これをイベントツリー方式のリスク分析と呼びますが、例えば土砂災害が起きるかもしれません。近くにため池があれば地震の揺れで決壊するかもしれません。火山の近くのゴルフ場なら火山性の地震で噴火につながる可能性があります。噴火が起きれば、土石流や土砂災害が起きるかもしれない。停電や水道が停止する可能性がありますし、大きなゴルフ大会なら観客席が揺れてケガ人が発生するかもしれません。

何人かで作業をすることでいろいろな意見が出てくると思います。どんな危険性がはらんでいるかを紐解いていくにはとてもいい訓練になります。

次に、どう予防したらいいか、実際に地震が起きたらどう対応するかを考えていくことになりますが、簡単な机上訓練をやってみることで、何が必要か、どう対応すればいいかが見えてくると思います。

例えば、大きなゴルフ大会を主催する企業向けに、こんなシナリオを考えてみました。

「500人の観客が見守る真夏のオープンゴルフトーナメント表彰式の開催中、付近を震源とするM6.8の地震が発生。最大震度6弱の揺れを観測。観客の悲鳴がひびきわたり、観客席から落下してけが人も出ているようだ。クラブハウスは停電し、水道も出ない。119にも電話が通じない」

1、あなたが危機管理担当者なら、まず何をしますか?  

2、高齢者の1人が心配停止状態になっています。どうしますか?他にも負傷者が出ているようです。

3、雷が鳴って、大雨が降り出してきました。どうしますか?観客はクラブハウスに入りきれません。ずぶ濡れで「中に入れろ」と騒ぐ人もいます。

4、市内からのアクセス道路が土砂崩れで寸断されて通行できなくなったとの情報が入ってきました。どうしますか?「さっさと家に帰してくれ」と騒ぐ人もいます。

広大な土地に分散している観客にどう安全確保を呼びかけるかも考えてみてください。

肝心なのは「ケガ人を助ける」というような答えを出したとき、5W+1Hでさらにイマジネーションを高めることです。

誰が、何人で、どうやって助けるのか、必要な資機材はあるのか。

コース内の安全確認をするなら、やはり、誰が(何人が)、どうやって、どのくらい時間がかかるか、日が暮れてきたらどうするか、広大な敷地で、仮に消防や医療機関関係者が来ても、正しく場所を伝えることができるか?など疑問をできる限りつぶしていきます。

ここで気づいた点、備えておいた方と思ったことをどれだけできるかが、被害の軽減度合いと比例してきます。

ここであった方がいいと思うものが予防で必要となるものです。決めておいたらよいと思うことが対応で役立つものです。

「無理」「やっても意味がない」と諦めてしまうか、できることだけでも今やってしまおうかと考えるかで明暗が分かれます。いきなり100%の対応なんてできません。まずは少しでも出来ることをやることが危機管理の第一歩になります。

このシナリオは、先日、ゴルフ大会主催者の集まる勉強会で、実際に使ったものです。結果、いろいろな意見が出されました。


・観客席近くには応急手当、AEDをあらかじめ設置しておく

・熱中症に備えて各コースで簡易貯水槽を用意しておく

・特に高齢者の観客が多いのでクラブハウス内の医療体制を強化しておく

・カートで負傷者をピストン輸送できるようにする

・誰でもカートでコース内がまわれるようゴルフ場の地図上にグリッド線を引き、グリッド番号で場所が把握できるようにする。

・本部と各カートに地図を入れておく

・雨で全員受け入れられないので、アルミシートやタオルを大量に用意しておく

・出店業者に緊急時の協力を求めておく(飲食の提供など)

・大型テントを用意しておく

・可搬式WIFI基地を用意しておく

こうした気づいた点だけでも、対策をしておくことで、実際に被害があった時の対応がぐっと変わってくるはずです!

ゴルフを一例に考えてみましたが、是非いろいろなイベントにあてはめてチャレンジしてみてください!

(了)